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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第2章「新参訓練生」

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第2章「新参訓練生」33 細い肩を抱いて

「なぜ、もっと早く教えてくれなかったんだろう。
僕は両親に手紙が書けないんだ。ガーランドに来てからずっと書けない。何も書けないんだ…ただの一行さえ…。
ああ、僕は何を話しているんだ。君に心から謝りたかったのに、カレナード・レブラント、僕はいったい…」
カレナードはキリアンの肩に手を置き、並んで座った。
「キリアン、僕も話したいことがある。
僕はずっと父と旅をして育った。6歳の誕生日に父は僕をオルシニバレ市の寄宿学校へ入れると言った。
でも僕は捨てられると思い込んで大喧嘩した。僕が怒り続けるので、オルシニバレ市が目の前だったのに野宿した。そして別々の場所に火を焚いた。1人になって頭を冷やせということだったんだ。夜明けに父のテントは土砂崩れにあった。地質学者で井戸掘り名人なのにさ…。
僕は長い間後悔していた。もし喧嘩しなかったら…もっと馬車を進めていたら…。
その時はただ悲しいだけだったけど、時がたつほど父に謝りたかった…でも、彼はいないんだ。母と共に大いなる闇に眠っている」
キリアンは訊くともなしに訊いた。
「誰かに話したことがあるのかい」
カレナードは首を振った。
「いや、君が初めてだ」
キリアンはカレナードの横顔を見た。
「君はそんな後悔を抱えていたのか」
「子供だったから、すぐに新しい生活に慣れて…忘れたつもりでいた。ガーランドに乗ってから時々思い出すんだ。たとえ父がいなくなっても持ちこたえられるだけのものを、彼が僕に残してくれていたことを…。
なぁ…キリアン、君も僕も誰かの慈しみをもらって生き延びたんだ。君はアルプ市のご両親を好きかい」
「ああ」
彼が頷くと大粒の涙が落ちた。
「じゃあ、手紙を書くんだ。貴方達の自慢の息子は少しも船酔いしてないってね」
「ああ」
「男子V班副班長の務めをちゃんと果たしているって」
「ああ」
「飛行艇の演習では計器チェックと航路設定をやってのけてるって」
「ああ」
「それから、編入生がいい友人になれそうだって言ってるって」
キリアンはカレナードを見て、誇らしく頷いた。
「ああ」
「それで、その友人の下穿きに手を突っ込んでいじめてやったってね」
「お…おいっ」
キリアンの頬は涙と羞恥で朱色になった。
「カレナード、まったくなんてひどいヤツだ」
カレナードは笑いをこらえていたが、とうとう吹き出した。キリアンも笑うしかなかった。それから2人は立ち上がって互いの肩に腕を回した。
キリアンが言った。
「改めて、よろしく。カレナード・レブラント。君にしたひどいことを許してくれるか」
「ああ。僕は君にだけ心を開かずにいた。申し訳なかった、キリアン・レー」
キリアンの背がほんのわずかだが、カレナードより高くなっていた。
そしてキリアンの腕は、以前シャワー室で見たカレナードの肩がこれ以上華奢になるまいと抵抗しているのを感じた。彼はカレナードのために出来ることがあれば、何でも力になってやろうと思った。
V班の連中は扉の小さな窓から代わる代わる様子をうかがっていた。中の会話は全然聞こえなかったが、どうやら2人が溝を飛び越えたのを確信した。そこで彼らはもと来た道を引き返した。シャルが言った。
「雪が降っても地が固まるものだねえ」
アレクが返した。
「それ、ちっともおもしろくねえぞ」
そう言いつつも皆は笑っていた。ヤルヴィが歩を速めた。
「夕食に行こうよ。熱く煮たキャベツと蕪と肉団子があるといいなぁ」
班長は最年少訓練生の頭を軽く撫でた。
「そうだな、今まで吐いた分を取り戻すか」
ミシコは明日はもう飛行艇で酔わないだろうと思った。それから間もなく遮音室の2人も食事に合流したのだった。
第2章はここで終わりです。次回から第3章「生き脱ぎ」になります。
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