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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第2章「新参訓練生」

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第2章「新参訓練生」32 キリアン、告白する

その週のコード演習はまたしてもガーゼを真空包装する作業だった。ミシコ達が着く前に2人は兵站部から材料を受け取って遮音室でトレイに並べていた。カレナードがV班を殴った部屋ではなかったが、白く分厚い壁があの日を思い出させた。いよいよキリアンは黙り込んでカレナードと目を合わさなかった。最終チェックをして作業を終えると、キリアンはほっとしたように息を吐いた。カレナードは「帰ろう」と声をかけた。
キリアンは白い壁を見詰めたままだった。彼は不意につぶやいた。
「僕が生まれたのは雪の日だった。聞いてくれ、カレナード。僕の秘密だ。新参の誰も知らないことだ」
彼は自分の出生を語り始めた。
「ミセンキッタ領国最北のアルプ市のもっと北の平原の真ん中で生まれたんだ。僕を生んだのはアナザーアメリカンの女性だった」
キリアンは決心したようにまっすぐカレナードを見た。
「君と同じだ。僕にはヴィザーツの血は一滴も流れてないんだ」
「いつ知った…」
キリアンに寂しそうな微笑が浮かんだ。
「ガーランドに来る少し前、家を離れる前の日さ。両親が教えてくれたんだ。
雪の日に助産所にたどり着けなくて、僕を生んだまま死んでしまった人のことを」
「君はアナザーアメリカンだったのか」
「…そうだ。信じられなかった…。嘘じゃないかって何度も思ったさ…。
君が来たとき、僕は怖かったんだ。いつか皆に知られてしまう…そうしたら何もかもが終わりのような気がしていたんだ」
カレナードは初めてキリアンと会った時の彼の翳りの正体を知った。
彼はヴィザーツとしてのアイデンティティが大きく揺らいだまま、V班の副班長を務めていたのだ。
ヴィザーツに生まれて育つことは、アナザーアメリカンにはない義務と使命と優位性を強固に身に着けた生き方であり、良しにつけ悪しきにつけ、アナザーアメリカンに対する優越感ないしは驕りをもっていて当たり前だった。誇りあるヴィザーツはアナザーアメリカンをあからさまに馬鹿にしないが、キリアンは十分すぎるほど半人前だったので愚かにもヴィザーツであることに自分のほとんどを依拠していたのだった。
彼は受けた衝撃は両親が想像した以上に深く彼を傷つけ、カレナードの出現によって神経はあまりにも過敏になっていたのだ。
カレナードは訊いた。
「そのアナザーアメリカンの女性について、ご両親ははなしてくれたのかい」
キリアンはうなずいた。
「名はエミリア…。それだけだ。それしか分からなかった。その人は身分証さえ持ってなかったんだ。
両親が飛行艇から見つけた時には、もう駄目だったって。
医療コードを使えないくらい弱っていたって。
ありったけの毛織物で僕を包んでいたって。
何か事情があったんだろうって。
キリアンって名前はその人が付けたって。多分、僕の父親の名前だって」
カレナードはキリアンが言うに任せた。キリアンは泣いていた。
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