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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第2章「新参訓練生」

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第2章「新参訓練生」31 北辺の空を行く

二の月の末、ガーランドは北メイス領国の調停開始式を終えて西に進路を取り、東メイス領国に入っていた。
ヤッカの言うとおり、新参訓練生にとって新しい試練が始まった。飛行艇演習は揺れる船内で航路盤をはじめ、計器類のチェックをするもので、操縦をする航空部警備隊のベテランヴィザーツは冬空の中を容赦なく飛ばした。夕暮れが近づくと、防寒コートが用を成さない寒さの中、第4甲板にはげろげろになって這いつくばる少年少女の姿があった。辺境に付きもののサージ・ウォールをじっくり見る余裕さえなかった。
V班ではキリアンとカレナードだけが船酔いを起こさなかった。多少疲れても一晩眠ればすっかり回復していた。
そこで班の仕事が彼らに回されることが多くなったが、2人の間にはまだ奇妙な溝があった。それをどちらの方から飛び越えるのか、誰にも分からなかった。
ミンシャの前では必死で吐き気をこらえているミシコが、男子棟に入ったとたん洗面所に駆け込む。それを介抱するのがカレナードの日課になっていた。
班長はそんな時でも「キリアンとの仕事はどうだい」と気にかけていた。
「気まずいという感じじゃないんだ。キリアンはよくやってるよ」
「それならいいんだ。彼はこのところすごく淡々としてるというか、静かだろ。反省してるには違いないんだけど」
「うん。ところで、もっと吐くかい」
「いや、もう全部出た。本当にきついな。君がうらやましい」
週末の夜、酔いがピークに達したV班のために、キリアンとカレナードは施療棟まで特別支給の薬を取りに行った。
上層天蓋は吹雪のためにあちこちが凍りつき、幻想的な模様を作っていた。
キリアンが少し見物していこうと言い出した。2人は上層天蓋の下を歩いた。わずかな光が天蓋に反射して美しかった。キリアンが言った。
「しばれてるなぁ…」
カレナードが初めて聞く言葉だった。
「しばれるって、何だい」
キリアンは上を見たまま答えた。
「故郷の方言さ。ミセンキッタ北方地方では、零下15度まで下がる日には窓ガラスに氷の結晶が引っ付くんだ。それは綺麗なんだ…。しばれるってのは、それくらい凄く冷え込むことを言うんだ」
それから2人は無言で寒い道を歩いた。まだキリアンはカレナードと目が合うと何かしらの緊張感を発していた。言いたいことがあるのに言葉にならない何かがあるようだった。
週が明けると皆の酔いは快方に向かい始めたが、コード演習で遮音室の準備をする当番はキリアンとカレナードだった。
「あの2人で遮音室に行くのはまずいんじゃないか。」
シャルが心配していた。アレクも気にかかっていた。ヤルヴィがげっそり顔のまま班長を振り返ると、ミシコはコートを着ていた。
「僕が様子を見てくる。」
結局V班全員が夕刻の男子棟を出た。春が近いとはいえ、日暮れは早く遮音室のある実習棟に着く頃はすっかり夜になっていた。
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