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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第2章「新参訓練生」

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第2章「新参訓練生」22 危機は続く

カレナードは道化に教えてもらった例の小部屋のもう一つの入口へと向かっていた。
エレベーターで『総合施設部』へ上がり、兵站セクション第20通路の柳が描かれた壁に隠し扉があった。扉を開けてすぐの階段を登れば、小部屋に出れた。
「サージ・ウォールだ…」
遠く北メイス領国の彼方に嵐の壁が見えた。山々を横切って壁がそびえていた。彼は壁の向こうの世界を想像してみた。緑が茂る草原、あるいは荒々しい海、あるいは荒涼とした岩山、そして闇の世界。ふと昨夜の恐ろしい部屋を思い出したが、目の前の眺めにかろうじて自分をつなぎ止めた。
「父さん、僕は…。僕は何をやってるんだろう」
V班に戻ると風呂の用意をしているところだった。アレクがいつになく不機嫌だった。
「お前、当番だろう。具合が悪そうだから俺が代わりにやるけど、これっきりだぞ」
「分かった」
カレナードはやっと昼食を取った。ヤルヴィが風呂を使うか訊ねた。彼の様子がいつもと違うのにカレナードは気付かなかった。
彼が最後に風呂に入ると、ヤルヴィはカレナードの死角から覗いて確かめた。カレナードが湯船の後始末をしている間にヤルヴィは班長に相談があると言ってベランダに出た。9歳の彼がこの手の秘密を抱えるには荷が重かったのだ。
「本当か。ウソだろ、そんな話、信じられるものか」
ミシコには降って湧いた話だった。彼はカレナードが編入してからの諍いに少々疲れていた。出来るならこれ以上の問題は起きて欲しくない気分だった。混乱した気持ちで彼は言った。
「じゃあ、確かめよう」
ヤルヴィは班長に話したのは間違いだと気づいたが、遅かった。班長は部屋を横切って、湯船の水滴を拭いているカレナードに近づいた。言われてみれば、彼のコルセットに胸の膨らみを見ることができるような気がした。
「今、ヤルヴィから聞いた。君は女性なのか」
全員が振り向いた。部屋全体が凍りついた。カレナードは正念場だと覚悟した。
「違う。僕は男だ」
きっぱり言って当番の仕事に戻ろうとした。ミシコは食い下がった。
「すまないが、コルセットを取ってくれないか。シャルはその下に醜い怪我があると言っていた」
「僕が女なら、ここにはいない。女子棟にいるはずだろう。どうかしてる」
カレナードは落ち着き払っていた。ミシコはもう一度言った。
「ならヤルヴィが嘘をついたことになる。コルセットを取ってみせるんだ、カレナード」
カレナードはミシコの後ろで困り果てているヤルヴィに気づいた。かわいそうなヤルヴィ、彼にどこで見られたのだろう。
「僕は男だ。多少胸が膨らんでいようと正真正銘の男だよ。ヤルヴィは嘘は言ってない。なんなら、ヤッカ隊長に聞いてくれ。それに出生証明書も見るか」
「お前…やっぱり病気か何かか」
ミシコは釈然としなかったが、カレナードが取り出した出生証明書を読み上げた。全員がそれを手に取ったが、キリアンは「偽造しようと思えば出来るさ」と矛先を向けた。
「コルセットを取ってもらおう」
カレナードは叫んだ。
「ヤッカ隊長に聞いてからにしてくれ!」
その勢いにはミシコさえ、驚いた。誰もが無言で疑いと事態の行方とV班の結束が崩れることを思い、揺れていた。班長は決断した。
「ヤッカ隊長に会ってくる」
カレナードは胸をなで下ろした。ヤッカは班長にカレナード・レブラントは男だと保証したのだった。しかし、問題が消えたわけではなかった。
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