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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第2章「新参訓練生」

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第2章「新参訓練生」21 夜の悲劇

マリラの剣幕は尋常ではなかった。一喝された女官達が退いたかと思うと、マリラは突進しドアを開いた。奥には濃い暗闇が満ちていた。部屋の端を確認することは出来ず、床の先は底知れぬ場所へと繋がっているかに思われた。
「一歩だけ入れ」
カレナードは震えながら入った。生きて帰れないような気配がした。マリラも部屋にそっと入り、カレナードをうしろから抱きしめた。
「怖いか。そうであろう、私もこの部屋は怖い。私はここで死ぬのだからな。毎年春分に死んで蘇るのだ。その時、大半の記憶は失われる。女王の公的な部分だけを残してな」
カレナードはベルの言葉を思い出した。
「い…生き脱ぎの…」
マリラは腕に力を込めた。
「そうとも。生き脱ぎの儀式は辛いぞ。死の苦痛がどのようなものか、そなたに分かるか!死ね、カレナード、私の代わりに!」
マリラはカレナードを何度も打ち据えた。彼が床に倒れるとさらに伸し掛り、ところかまわず叩いた。イヤリングもかんざしも落ちた。
女王は疲れはて、カレナードは痣だらけになって部屋を出た。女官達は沈黙の内に女王の寝支度に移った。
ベル・チャンダルは、女官の控え室で手早くカレナードの衣装を取り、彼の傷に薬を塗りながら「あなたもマリラさまもお気の毒に」とつぶやいた。
「どうかマリラさまを恨まないで下さい。今日はあの方の辛さを、あなたがおもてに引き出して減らしたのですから」
ベルは目の奥の涙をこらえて、彼をエレベーターの訓練生棟の階で見送った。夜道を歩くカレナードの体にまだ震えが残っていた。女王の恐るべき義務を知ったためか、彼女の怒りを全身に受けたためか、判然としなかった。
男子棟はすっかり明かりが消え、夜更しの連中も寝床に入ったようだった。カレナードが部屋に戻ると小さな影が動いた。ヤルヴィが一緒に眠ろうと待っていた。
「待っててくれたんだ…、ヤルヴィ」
「ベッドを暖めておいたよ。はい、これを飲んで」
どこから調達してきたのか、ヤルヴィは薬酒を取り出した。カレナードはすぐに寝入った。その夜、彼はすっかり気が抜けてしまい、胸を布で巻かずに寝てしまった。ヤルヴィが亡き母の夢で目を覚ましたとき、彼は懐かしい乳房の感触が現実のものだと知って驚いた。男にはありえない胸の膨らみがカレナードの寝間着の間から見えていた。
彼は大急ぎでカレナードに毛布を掛け、自分のベッドに戻った。
翌朝、休日の新参達はカレナードの話を聞くためにV班の部屋に訪れては、失望して帰っていった。顔の痣と暗い表情を見れば、彼が失態を犯したのは一目瞭然だったので、皆は早々に退散するしかなかった。
「あーあ、せっかく禁断の園を覗いてきたくせに」
ナサールは昨日のベル・チャンダルにすっかりのぼせ上がっていたため、落胆の腹いせをミシコにぶつけていた。
「せめて失態ぶりを披露してくれても良さそうなものだけど」
「言うなよ、ナサール。僕らだって聞きたくてウズウズしてるんだが、彼は今はそっとしとくしかないんだ。楽しみはあとで、な」
「V班の班長は女王の紋章に遠慮しすぎだ。もっとガツンと行けよ」
一方、ヤルヴィは迷っていた。カレナードの秘密を黙っているべきか、班長に告げるべきか。
寝過ごして朝食を取らなかったカレナードにキリアンは「女王にご馳走をいただいたから、口が肥えたんだろ」と散々嫌味を言った。頭に来たカレナードは拳を構えたが、すぐにやめて部屋を出ていった。
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