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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第1章「禁忌破り」

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第1章「禁忌破り」4 女王マリラ、春分前逃避行 (挿絵追加 2014/6/14)

ヒューゴはカレナードを人に預け、気象研究者達とサージ・ウォールから100kmの地点まで5kmごとに風と太陽熱の蓄積率、さらに火山活動まで何週間も観測したこともあった。
その結果、通常の気象現象としての風はサージ・ウォールの手前20kmまでは存在するが、それより内側はサージ・ウォールの一部となり、常に左方向への上昇気流がどこからともなく発生していた。
その発生源を突き止めようとしたが、全く分からなかった。
もっともサージ・ウォールの手前15kmで、すでに秒速20mの疾風が吹き荒れ、彼らは命綱を頼りに引き返すしかなかった。
ヒューゴは幼い息子に仮説を語った。
「私はサージ・ウォールそのものが独立した一個のエネルギー活動体と仮定しよう。そのエネルギーは未知のもので、アナザーアメリカに空気のように見えない形で存在している。人の目にはとらえられないほど小さなエネルギー物質だ。
それを『ゼル』と名づけておく」
彼はいつかその存在を証明しようと小さな手帳に書き綴った。サージ・ウォールは彼にとってロマンでもあったのだ。
父と息子の旅はカレナードが6歳の誕生日を迎えた春に終わった。
ヒューゴは息子をオルシニバレ市の寄宿学校に預けようとしていた。
その日、女王マリラ・ヴォーはガーランドを抜け出し、払暁にむけて心の赴くまま飛行艇を飛ばした。
「女官長と艦長ら側近があとで何を言おうが、知らぬ。
今の私は一人にならねば心が鎮まらぬ。春分が近い…。生き脱ぎの儀式の前には絶対の孤独が必要だ…」
オルシニバレ領国の首都であるオルシニバレ市郊外の湖の近くに降りた。
夜明け前の白い霧が湧き、唯一人になって幽玄の世界に佇んでいた。
「安らかだ…。生き脱ぎもこのように静かで安らかなものだと救いもあるのに」
それがないものねだりということは、彼女にはよく分かっていた。
数十年に一度、女王の役目に倦み疲れると、彼女は自ら飛行艇を操って人知れぬ山中に降り立ってきた。
挿絵(By みてみん)
彼女は孤独も闇も地表を這う狼も恐ろしくなかった。
恐ろしいのは自らの中に溜まっていく澱のような感情。放っておくと正気が失われそうになる。
だからこうして捨てに来た。
これで何十回目になるだろう。
2500年の永きに渡りガーランドの女王であるマリラはすでに回数など忘れていた。
「浮き船はアナザーアメリカの守り主であり、大いなる畏敬の対象…。
浮き船が各領国間の争議を取り持ち調停するゆえに、アナザーアメリカは創生の時代から戦争の歴史を持たず、大量の血を流さずにきた。
それは創生の時に浮き船の船主となった私の目指したアナザーアメリカの姿であり、そのために不死の女王を務めてきたのだ…」
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