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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第2章「新参訓練生」

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第2章「新参訓練生」20 何が彼女をそうさせる・その3

ベルが給仕をし、カレナードは落ち着いてスープを口に運んだ。ドレスを汚すことはなかった。滋養に満ちた味だった。彼のマリラへの恐れは薄れていった。マリラは慈しみに満ちた眼差しで人形を見た。
「美味であろう、カレンよ」
ジーナは内心では用心していた。カレナードが人形の役目に徹しているからこそ、マリラが落ち着いて本来の彼女でいられるのをジーナは知っていた。
彼が人形に扮して2時間が経っていた。そろそろ御開きにしてもいい頃だろう。カレン人形は見事にやってのけている。食事も終わりだ。
「では、人形はこれで下がらせます。カレン、マリラさまにご挨拶を」
カレナードはベルに手を引かれて台車に乗った。彼は挨拶し、頭を下げたまま言った。
「マリラさまに御礼申し上げます。
10年前、オルシニバレ市近くの山中で幼かった私を助けていただきました。父の弔いと私の身の振り方へのお心遣いを忘れたことはございません。ずっと直に御礼申し上げたいと思っておりました」
マリラの声が急激にトーンを落とした。人形遊びを楽しんでいた気配が消えた。
「それはいつの話か。私はそのような覚えはない」
「いいえ、10年前の早春の夜明けでした。デュボア湖の浜辺に飛行艇を停めておいででした」
カレナードは人形の振りを忘れ、目は語りすぎるほど語った。マリラから冷たい怒気が立ち上った。
「人形が人間に戻ったようだな。カレナード、私は10年前のそなたなど知らぬ」
ジーナ達は女王の慰めがいっぺんに吹き飛んだのを悟った。全力でこの場を収めるしかない。
女官長は脇から進み出た。
「人形が無礼を働きますゆえ、下がらせます。マリラさまはどうか、このまま」
「ならぬ!この無礼者には思い知らさねば。来るがいい、カレナード」
マリラはカレナードを台車から引きずり下ろすと、手を引っ張り一つのドアから奥へと進んだ。
寝室の前室を通り過ぎ、さらに奥のガランとした部屋に出た。後ろから女官達が事の成り行きに対処するため追ってきた。大きく寒いその部屋にマリラの声が響いた。
「私は10年前のそなたを知らぬ。そなたの父を知らぬ。助けたことを何も知らぬ」
カレナードは失態を悔やんだが、手遅れだった。マリラは怒りに身を任せて彼を平手打ちした。白いドレスのまま、彼は打たれた。
「私は女王の他の記憶を持たぬ。思い出は消え去るのみ。ゆえに幼きそなたを知らぬ」
彼女はふたたび彼の手を引いて、さらに奥の部屋へ進もうとした。女官全員が立ち塞がった。ジーナは必死だった。
「なりません、マリラさま。この奥に女王以外の者が入れば、ガーランドに何が起こるか分かりませぬ」
「アハハハハハ!ガーランドか!心配は要らぬ、ガーランドは私だ。そしてこやつは生け贄だ。
さぁ、来い。私の代わりにドレスを着たのだ、恐ろしい場所を見るがいい。女官達はそこをどきなさい!」
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