挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第2章「新参訓練生」

64/388

第2章「新参訓練生」15 ベランダ小部屋のワイズ・フール

カレナードは施療棟でチェックを受けた。軽い打撲だけだった。
監督官が梯子の29段目を改め、原因は再起動コードのかけ忘れと分かった。キリアンのミスだった。
その夜のV班は沈んでいた。カレナードの顔色は青く、夕食もあまり喉を通らず、ベッドに座り込んでいた。
キリアンが「俺のミスでひどい目に合わせてすまなかった」と珍しく率直に詫びにきたが、心ここにあらずといった返事を返すだけだった。
彼は再び心に蓋がのしかかるのを感じていた。
女王マリラ。彼女は一体自分をどうするつもりなのだろう。彼女にとって、自分は人ですらないのかもしれない。価値のないガラクタのようにもてあそばれ、そのまま息絶えても顧みられることさえないのかもしれない。
乗船の日のマリラの言葉が甦った。
『すなわち奴隷に等しい』
浴室で見た女王の姿を追い払いたかった。それができないまま、彼は疲れて点呼の前に眠っていた。
カレナードとキリアンは翌日の実習から外され、代わりに第3格納庫上の連絡通路の錆落としをした。
これは本来女子訓練生の仕事だったが、文句を言える訳がなく2人は黙々とコードを使い、手作業でペンキを塗り直した。休憩時間にキリアンが言った。
「気分が良くないなら、施療棟へ行ってもいいんだぞ」
「いや…仕事してる方が楽なんだ」
「昨日はすまなかった。許してくれるか」
「もういいよ、キリアン。僕は君のミスは何とも思ってない」
キリアンにはカレナードの不調の理由を知る由もなかった。彼は自責の念から不用意に訊ねた。
「お前…何があったんだ。俺に怒ってるんじゃないのか」
「だから…それはもういいんだ。僕が苦しいのは…君のせいじゃない…」
「じゃあ、なんでそんなひどい顔してるんだ。気になるんだよ」
「僕のことは放っておいてくれないか、キリアン」
「いろいろ突っかかったのは悪かったと思ってるさ。だから、こうして」
カレナードは不意に立ち上がった。
「歩いてくる」
キリアンは唖然と見送ったが、すぐに口を尖らせた。
「なんだよ!人がちょっと下手に出たからって。少しはこっちの気持ちも分かれよ!」
カレナードは連絡通路から梯子を昇り、第3甲板の上に張り出すテラスに出た。
そこは一面の栽培ポッドが並ぶ兵站部の農場になっていて、通路が第3管制塔の下まで伸びていた。通路から小さなベランダ部屋へ入ることができた。壁面に百合の彫刻が嵌め込まれ、眺めのいい場所だった。
彼は床に寝転んだ。天井は高く、日が射していた。少しうとうと眠った。
「おやおや、先客がいらっしゃるとは」
上から覗き込んでいるのはワイズ・フール、道化だった。
道化はホクロを頬に三つずつ赤く描き、ピンクのアイシャドーを付けていた。衣装もピンクで、同じくピンクの毛を手首に巻き、尻尾を着けていて、誰もが笑い出しそうな恰好だった。しかし、カレナードは笑うことが出来なかった。
道化は少年の隣に座った。
「ここは小生の秘密の特等席でしてね、1人になりたい時に来るんですよ」
「すみません、すぐ出ます」
立とうとするカレナードの手首を道化は掴んだ。ちょっと歪んだ微笑がフールの口元に浮かんだ。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ