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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第2章「新参訓練生」

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第2章「新参訓練生」12 諍いバスタイム

日曜の午後、洗面所に湯が通される時間になった。新参訓練生は部屋で使うコードを制限されていて、休日だけ簡易風呂が許されていた。
当番のシャルとアレクが折り畳み式の湯船を狭いタイル敷きの上にセットし、目隠しの衝立てを出している時だった。キリアンがカレナードに難題を突きつけていた。
「コルセットを取れと俺は言ったはずだ」
蛇口で湯加減を調節していたカレナードは黙っていられなかった。
「僕は風呂は最後に使わせてもらう。その時は取るさ。君は呪いがそんなに気になるのか。だからどうなんだ、キリアン。僕が呪いのために講義や実習でへまをやったか。君に迷惑をかけたか」
二人は湯船を挟んで睨みあった。
風呂用の液体石鹸を出していたシャルが、美しくないねぇ、と茶化しても無駄だった。
ミシコとアレクは成行きを見守った。ヤルヴィは明らかにカレナードの味方だが、口出し出来ないでいた。
キリアンは強気だった。
「俺は、隠し事はするのもされるのも嫌なだけさ。お前の呪いを気にしてる訳じゃない」
「人に秘密の一つや二つ、あるのは当たり前だ。それをわざわざ暴きたいのか。それも僕だけに強要するのはなぜだ。僕がアナザーアメリカンだからか」
「アナザーアメリカンで後から編入したヤツだからさ」
「いい加減にしてくれ、キリアン。君の偏見と優越感で苦しみたくない! 僕は玄街に呪われた体でやっていくだけで精一杯なんだ」
「自分の苦しみしか見えないヤツだから頭に来るんだ!甘ったれめ」
「そういう君は完璧な人間なのか」
「黙れ、アナザーアメリカンのくせに」
口論にうんざりしたミシコが洗面器の水を2人にかけた。水は床のタイルと木目にも滴り落ちた。
「お前ら、もっと水をかけてやるぞ。次はベランダに出てもらおうか。天蓋の外は雪だから、きっと頭もよく冷えるだろうな」
キリアンは黙ったまま自分の椅子に戻り、タオルで体を覆った。カレナードは雑巾で床の水を拭いた。コルセットに水のシミが広がって、彼はくしゃみをした。ヤルヴィが手伝おうとするのをカレナードは断った。
「これは僕の罰だ。すぐ終わるから、ヤルヴィは着替えを用意しているといい」
シャルが屈んでいるカレナードににタオルをかけた。
「僕は美しいものが好きなんだ」
「な、何だい、シャル」
「濡れたままだと風邪ひくぞ。コルセットの替えはないのかい」
「ないよ」
「ここだけの話だけど、シーツの予備を1枚くすねてあるから、畳んで代わりにしろよ」
「助かる、ありがとう、シャル」
「キリアンもさ、悪いヤツじゃないんだ。この頃、虫の居所が変になってるだけなんだ。しばらくしたら元の彼に戻るさ。彼を嫌わないでやってくれ」
「君がそういうのなら、そうなんだろうな、キリアンは…」
シャルの後でアレクも頷いた。こうしてカレナードは難しい注文を引き受けた。彼が湯船を使う頃、湯はすっかり冷めていた。
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