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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第2章「新参訓練生」

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第2章「新参訓練生」10 エアシャワー

カレナードは顔を上げた。
「班長、君を信じないわけじゃない。少し待ってくれないか。話すには僕自身、気持ちを整理したいんだ。あの日から僕はガーランドを追うだけで精一杯だった。
新参訓練生になってはじめて分かったんだ、僕は自分の呪いについて考える暇もなかった。だから、ミシコ、時間が欲しい」
班長は何か考えるように立ち上がった。
「僕もそのことが気になって落ち着かないんだ。そうだな、1ヶ月待つよ。君が早く話したくなれば、それはそれでいいんだ」
「すまない、班長。僕も話せたらどんなにいいか…」
「いや、禁忌を犯してまでここに来たんだ。よほどの事なんだろう。ただ、つらい隠し事はいっそ話した方がラクだとも言うじゃないか」
それでもカレナードは恐ろしかった。遮音室の白い壁がやけに冷たく感じた。
翌日からの講義と実習に彼は必死でついて行った。実習は始めの3日間だけミシコが付きっきりで助けたが、それ以後は一人前に動かなくてはならなかった。
古ぼけたナノマシンは吹き溜まりのような滓となって、浮き船の至ることろに積もっていく。放置すれば付着した部分が代謝不全となり、強度が落ちた。
新参訓練生がする清掃はただの掃除ではなかった。人目につかない配管や装置や隠し通路、天蓋の内外や甲板のメンテナンスを兼ねていた。
特に男子訓練生は命綱を頼りに艦内の縦穴や天蓋の内側を這い回る作業が課せられていた。入隊式から2ヶ月近くが経ち、彼らは次第に危険な仕事を任される時期にいた。
初日の作業終了後、各班ごとに実習棟に戻り、フィードバックを行った。そのあと体中に着いたナノレベルの滓を落とす時になって、カレナードはうろたえた。
エアシャワーに新参達が列をなした。多人数用のシャワー室が三つ並んでいて、その手前は簡単な間仕切りだけの大更衣室だった。
ミシコ達が実習服を脱いで、下着だけになった。アレクがカレナードの背中を押した。
「シャワーに入るんだから、早くしてくれ」
「みんな一緒にか」
「当たり前だろ。次の班がつかえてるぞ。そら、こっちだ」
カレナードは意を決して、コルセットと下着だけになった。
ヤルヴィが実習服もハンガーに掛けてシャワー室へ持っていくように言った。幸いシャワー室はオレンジ灯が一つだけで暗かった。ハンガーは壁から突き出たポールに吊るした。
ミシコが合図のコードを言う前に注意した。
「カレナード、息は必ず鼻から吸って口から出せ。目は閉じろ。開いてると風の勢いで痛いぞ」
シャワーは湯でも水でもなかった。特殊なコードを与えた気流が全身を襲った。わずか40秒だったが、終わるとカレナードは咳き込んだ。
「皮膚がひりひりする感じだ」
シャルがさっぱりした顔で言った。
「最初だけさ。慣れると湯船に浸かるより汚れが落ちたのが分かるって、兄貴のニコルが言ってた。足を開いてるとすごい感じだって、わざわざ教えに来るんだ、あのアホ兄貴」
アレクがシャルの髪をクシャクシャにする。
「お前はお兄ちゃんを気にしすぎだよ。俺は週末だけとはいえ、湯を使う風呂がいい。全部脱げる」
急いで実習服を身に付けていたカレナードはぎょっとした。
「いつもこれじゃないのか」
キリアンがコルセットを胡散臭そうに見た。
「班長は説明してなかったのか。休日は部屋の洗面台の所に湯船を置いて風呂を使うんだよ。その時にはコルセットは取って入ってくれ」
「…そりゃあ…」
キリアンは返事に窮しているカレナードを一瞥した。
「呪いか。女みたいに肩が細いぜ」と言い捨てると、さっさと出ていった。
「肩…」
カレナードはぞっとした。自分でも気づかないうちに確実に体が変わっていたのだ。間仕切りにある鏡をさっと見た。それなりに幅があると自負していた肩甲骨の上の線が痩せていた。
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