挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第2章「新参訓練生」

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

57/388

第2章「新参訓練生」8 右舷展望回廊にて

夕食までの自由時間、ミシコとカレナードは歩いた。
「もう艦内の地図は頭に入ったかい」
「ガーランドを三つに分けて覚えてみたんだ。最前部が滑走路と総合施設部とメンテナンス部の仕事場で、その下は甲板材料部の仕事場と倉庫。真ん中が上層と下層の天蓋下の区画で、下は飛行艇とトール・スピリッツの格納庫。そして最後部が艦橋管制部と女王区画で、その下に機関技術部と航空警備部隊の施設、もっと下に機関部。間違ってないか。」
「いいんじゃないか。この下層天蓋の道はだいたい覚えただろうから、上層天蓋下の展望回廊に行ってみるか。エレベーターは扱えるよな。オルシニバレにもあっただろ」
カレナードは頷いた。彼はさりげなく調停完了祭の日のことを詫びた。
「やはり君は起動コードを言ったんだ」
「生誕呪がそういうコードだとは知らなかったんだ。飛行艇のトラブルは本当に申し訳なかったよ。まだ怒ってるかい、班長」
「ああ、まだ猛烈に怒ってるさ!なんてね。アホらし」
ミシコは笑い飛ばした。
「なぜ言えるようになったんだ。」
「助産所に何度も生誕呪の立会いに行ったからね。」
「え…立会いはたいがい女がやるものだろ。」
「公証役場の人はたいがい男が来てたよ。それに僕はフロリヤ・シェナンディ嬢のお供をしただけだ」
「君は耳がいいんだな。起動コードは簡単だから、アナザーアメリカンでも再現できないことはないだろうけど、危険だ。理由は分かるよな」
「ああ。コードが及ぶ範囲と時間を指定する必要があることを、僕は知らなかった」
「エアシャワーは使ったか」
「いや、講義棟の温水シャワーを何回か使ったよ。歴史学の先生が集中講義のあとで許可をくれたんだ」
「意外だな!鉄の女のマイヨール・ポナ女史が新参に温水を!」
「それは贅沢なのかい」
ミシコは肩をすくめた。
「講義棟の温水は教官専用だ。新参が湯船を使えるのは日曜だけさ。もっともエアシャワーなら水を使うより汚れは取れるぞ」
カレナードはもっと詳しく訊きたかったが、ベテラン乗組員を乗せたエレベーターが来た。新参は略式敬礼をし、静かに黙っているべき礼儀を守らねばならなかった。
上層天蓋区へのエレベーターはオルシニバレのような装飾付きの鉄格子の箱ではなく、柔らかな光が落ちてくる大きな密閉容器のような箱だった。階数は下層天蓋区から上層天蓋区の間だけでも8階あり、下から順に『訓練生管理部』『居住区1』『居住区2』『中央甲板連絡通路』『総合施設部』『総合訓練棟』『施療棟・コード技術開発部』『情報部区画』のボタンがあった。ミシコは情報部区画のボタンを押した。エレベーターを降り、右手に図書館、左手に情報部区画の木立が広がっていた。
「展望回廊からの景色は一度観ておくといい」
ミシコは図書館への道を抜けて、右舷展望回廊へ出た。天蓋のガラス越しとは全く違うクリアな景観が広がっていた。オルシニバレ領国の最北端上空はほとんど夜になっていた。藍色がかすかに残る地平線も、東メイス領国への運河と街の灯りも、高い所にある月と星々も、手に取るように間近に見えた。そのくせ風を感じなかった。カレナードは思わず声を上げた。
「まるで…真空管の中の灯りのように鮮やかだ…。冬の空気のせいなのか…。いや、展望回廊は外気に晒されてない…」
ミシコが頷いて両腕を広げた。
「自然の脅威からガーランドを守る電磁障壁とは別のものがここにはあるんだ。甲板材料部とコード開発部が粋を集めた間真空障壁さ。真空を透明な膜でサンドイッチにしてあるんだ。膜は多機能で、膜に触れる空気中の塵を分解もできるし、透過補正も効く。だから、ここからの光景はちょっと違うのさ」
「すごいな…。ヴィザーツはやっぱり魔法を使う…と言ったら駄目なのかな、班長」
「入隊したばかりの僕なら駄目と言うは資格はなかった。君と同じように感じたからさ。これがれっきとした技術ってことが君にも分かるさ。しっかり付いてきてくれ、アナザーアメリカン」
カレナードはもう一度遠くに輝く光を見た。アナザーアメリカンの過去とヴィザーツの未来が彼の中でせめぎあっていた。ミシコは伸びをした。
「さあ、食堂に行こうか。きっと今夜も塩漬け鰯とジャガイモのフライだぞ」
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ