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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第2章「新参訓練生」

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第2章「新参訓練生」7 新世界の日々

編入の翌日から、カレナードとマヤルカはわずか8日間で1ヶ月分の講義が課せられた。その間、実習は免除され、教官が入れ替わり立ち代りヴィザーツの基礎学問に集中させた。哲学を兼ねたヴィザーツ歴史学、地誌学、コード基礎理論、理数学などのエッセンスは2人を追放刑の罪人から学生へと引き戻した。
男子新参は始めこそカレナードを遠巻きにしたが、朝食前の軽い体操とランニングに加わった彼と少しずつ挨拶を交わした。S班のサナールは関心を隠さなかった。
「集中講義はどうだい、カレナード」
「やりがいがあるよ。多少混乱もしているけど」
「アナザーアメリカンには荷が重いか」
「いや、シェドナン奨学生資格保持者の名にかけて追いついてみせる」
新参訓練生の朝は早く、午前8時から講義が3つ、その間に演習か体技をして昼食となる。午後のほとんどがガーランドの清掃を兼ねた実習で、それが4時半まで続く。
コードの基礎と応用を身につけ、集団活動を学ぶには最適で、そのうえ巨大なガーランドのメンテナンスには欠かせない実習だった。
実習終了時に入浴し、夕食まで自由時間となる。就寝前に点呼があった。
その日常に入るまでにカレナードは講義の復習に没頭した。朝になると必ず彼のベッドからノートが滑り落ちていた。
キリアンはその態度を小馬鹿にした。
「所詮は付け焼刃だね。促成栽培で何ができるって言うのさ」
ミシコはキリアンより大人だった。
「付け焼刃でいいさ。ヴィザーツ屋敷のスコラで学んできた僕達も、ガーランドの教官から見れば、彼と大差ないんじゃないか。僕は、起動コードが生誕呪と言われる真の理由が分かったのは、ここへ来てからなんだ」
「意外だな。ミシコ班長がそんなに鈍いとは」
「君は鋭い直感と繊細さがある。そして僕には鈍いと見せて相手を安心させる力がある」
「それは人が悪いな」
こう言って笑うキリアンはいつもの彼だ。
「ミシコはガーランドに来る前に起動コードの役目に気づいていたんだろ」
「ああ。でも、気づいていたのは役目だけだ。起動コードの意味を深く考えたことはなかったよ。指定空間内のナノマシンを目覚めさせるコードだけだと思っていた。違うんだ。活性化したナノマシンが次のコードで命令されない限り待機し続ける。時間指定を過ぎれば不活性化もする。つまりは誤作動や暴走をしないための安全弁でもあるんだな。どこか調停の機能に似てないか」
ふとキリアンは、ベランダから窓越しに、ヴィザーツ歴史の講義レポートを書いているカレナードへ目をやり、口がへの字にゆがんだ。ミシコが訊いた。
「彼のどこが気に入らないのかな。聞かせてくれないか」
「それは班長の役目で言うのかい」
「そら、その態度だよ、キリアン。君は彼のことになると妙につっかかる。どうしたんだ。彼がアナザーアメリカンだからか」
「それもある…。そうさ、俺はアナザーアメリカンが苦手なんだ」
ミシコは首をひねった。彼の決して鈍くない観察力が、キリアンは嘘を付いていると告げていた。
「とにかく彼はもうヴィザーツの一員だ。僕達同様ひよっ子さ。コードの発音を特訓してやらなくちゃ。来週、彼がコードを使えないまま清掃実習に加わったら大変だ。ここは一つキリアン先生のお力を借りたいんだよ」
「おだてたって駄目だ。俺より適任がいるよ。口から先に生まれてきたシャル・ブロス先生なら楽しくやれるさ。俺は少し休むよ。今日やった排水装置はえらくきつかったんだ」
ミシコはキリアンの一人称が『僕』から『俺』に変わっているのに気づいた。
「難しいヤツ…」
それでもミシコはどうにかなるものだと気安く考えていた。
「さて、週末だし気分転換にカレナードにガーランドの部署を案内してやろう。」
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