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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第2章「新参訓練生」

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第2章「新参訓練生」4 爆弾を抱えた者同士

ヤルヴィが「すごい…」とつぶやき、新参訓練生の群れから称賛と驚嘆をあらわす口笛が飛んだ。空中に放り出され生還する試練に耐えた編入生にとりあえずの一目を置き始めた。
「あいつ、やるじゃないか。吊られたら、万に一つも命はないはずだ」
カレナードは左手に巻いた布を外し、刺青を晒した。
「これが禁忌を犯した代償だ。僕はヴィザーツになり、紋章人と呼ばれ、さらに女王が死ねと言えば死ぬだろう。ところで制服の着方を教えてくれないか。ガーランドのことや履修科目についても、何も知らないんだ」
ナサールとシャルが「よしキタ!」「何からでも訊いてくれ!」と色めきたった。それをキリアンが遮った。
「肝心なことが抜けているぞ。玄街のコードはお前に何の作用をもたらしたんだ。アナザーアメリカンは呪いとか邪悪な魔法とか言うだろうが、いったいミシコの家で何が起きたんだ。班長は知らないのか」
ミシコ・カレントは肩をすくめた。
「言ったろう。僕は入隊式のために家をすぐ出たから、事情はよく知らないさ。カレナードの顔は覚えたけどな」
カレナードは触れたくないことに触れられ、逡巡していた。ここで彼らに体の秘密を明らかにしておくべきか否か、迷った。彼はまだ自分の肉体を全て受け入れいるわけではなかった。常にある違和感と、施療棟でリリィ・ティンの心無さに傷めつけられたことが、この一点に関してだけ、彼を臆病にしていた。
シャルに美人と言われて動揺したのも、この秘密を同じ年頃の同性に知られるのを恐れているからだった。今になって初めてそれに気づいた。
「どうした。言えよ、元出資寮監督生」
キリアンの口調は、女王の紋章を持っていようが、アナザーアメリカンはヴィザーツ以下だといっていた。それがカレナードを反撥させた。
「それは言えない。お嬢さんの名誉に関わることだからだ」
アレクとシャルがこれだけは確認したいと前置きして、感染病のコードかと尋ねた。
「そんなのじゃないよ、これは個人に影響のあるコードだから皆は何も心配いらない。僕の問題だ」
キリアンは腕組みしたまま、カレナードに迫った。
「ふん、個人的な問題なら尚更明らかにしたほうがいいんじゃないか。俺たちはいずれチームを組むんだぞ。飛行艇演習にしたって、明日からやるナノマシン制御実習にしたって、もうチームワークが求められるんだ。得体のしれない奴がいたんじゃ、上手くいくものもそうじゃなくなるぞ。爆弾抱えたままの奴は、俺はごめんこうむる」
まくし立てたキリアンにカレナードの直感が瞬時に反応し、彼はそっくりやり返した。
「僕には君こそ爆弾を抱えてるように思えるな、キリアン・レー!」
キリアンは怒りもあらわに殴りかかりそうになった。
「やめるんだ、キリアン!」
ミシコはいつにないキリアンの剣幕をいぶかりながらも、彼を抑えた。
「2人ともそれまでだ。」
ミシコの統率力がその場をしずめた。
「やるなら前の通りへ出てくれ。ここで喧嘩したら、全員夕食抜きだからな。カレナードのコードの件は無害なんだ、本人に任せろ。シャルとヤルヴィ、新入りに制服と科目について説明だ。キリアンとアレクは明日の実習準備を手伝ってくれ。ほら、別班の君らも仕事があるだろ。カレナード、お前が女王の紋章を持っているからといって特別扱いはしないぞ」
「ああ、望むところだ。」
カレナードのミシコへの返事を、キリアンは勝手に自分への挑戦と取った。ナサール達、別班の連中はせっかくおもしろいところだったのにと首を振り振り戻っていった。
カレナードはキリアンの物言いにひどく苛立っている自分に驚いていた。相手の痛いであろうところを的確に突き刺していた。
「彼も秘密を持っているんだ。しょっぱなからマズいやり方だったな…」
自分を止められなかったのは、吊られた疲れがまだ残っているせいだと思いたかった。体が本来の自分でないことへの苛立ちが、ひそかに積もっていた。
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