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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第2章「新参訓練生」

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第2章「新参訓練生」1 下層天蓋下の軍人

第2章に入りました。
カレナードの私物はわずかになっていた。
シェナンディに貰ったマントとブーツ、セーター。父の形見の皮張り手帳。古着屋で買った上着と手袋、ナイフと小さなハサミ、フロリヤが用意した書類入れ、針と糸と紐、帽子、缶入り塗り薬、地図、数本の鉛筆とメモ用紙、何枚かの下着とブラウス、古いカバン、そして着ている服だけだった。
それらを脇に抱えて、ヤッカ隊長と共に新参訓練生男子棟へ向かっていた。
マヤルカは彼女の担当医のベテラン女医に付き添われて女子訓練生棟へと別れていった。
ヤッカは天蓋のある二つの居住区について説明した。
「第1甲板と第2甲板の間は上層天蓋下と呼ばれる区域で、主に仕事の場だ。総合施設部、施療部、コード開発技術部、情報部などがある。その前方下にあるのが第3・第4甲板との間、今、我々が歩いている下層天蓋下だ。乗組員の7割はここに住んでいて、訓練生管理部や訓練実習棟群がある。すぐに実習でガーランド中を走り回ることになるが、迷子になるなよ。新参には危険な場所もあるからな」
カレナードは非常食のお礼を言った。
「オンヴォーグと声をかけていただきました」
「君はよく耐えたな。私は初めて吊るしに立ち会ったが、君が戻って来たときは正直ホッとしたよ。これからが本当にオンヴォーグが必要だ。ヴィザーツの道を行くのは容易ではないかもしれない。勇気を出したまえ、いかなる時も」
大きな天蓋の外は雪が舞っていた。ガーランドは夕暮れの山脈を越えていた。
「全然揺れませんね」
「そうだろう。この船にはいろいろと仕掛けがある。代わりに飛行艇とトール・スピリッツの揺れはすごいぞ。みんな一度は酔ってげろげろするものだ。もちろん君にもげろげろしてもらおう」
男子訓練生棟は居住区の傾斜地にあった。そこにたどり着くまでに、ヴィザーツが住まうアパルトマンと上級の訓練生棟が立ち並んでいた。どれも3階以上の淡い色の建築で、傾斜したスレート屋根にも窓が見られた。舗装された道の脇には小さいながら果樹園があり、花木があった。
「君は男子V班に配属された。マヤルカ嬢は女子Y班だ。男女共にQ班からZ班までが、ガーランド乗務員の卵たち、総勢126名だ。
A班からP班は10ヶ月訓練生といってな、文字通り10ヶ月でガーランドを降りるが、こちらは総勢198名。訓練生の1年は冬至祭に始まるから、君は1ヶ月遅れだな。訊いておきたいことはあるか」
「僕はヴィザーツのことをほとんど知らないのです。オルシニバレ市の助産所で生誕呪を唱える方々を見たくらいです。そうだ、ずっと気になっていたのですが、ヴィザーツの赤ちゃんも生誕呪が要るのですか」
ヤッカは拍子抜けした。
「おやおや、ヴィザーツはそれほど特別に見えるか。生き物としてはアナザーアメリカンと何の違いもないぞ。君はヴィザーツをどんな人間と考えているのだね」
「僕達とは違う摂理に生きている人達です。僕達アナザーアメリカンが知らないアナザーアメリカのルールがあって、それを知っているのがヴィザーツです」
「ほう、よく分かっているじゃないか。君はそのルールに戸惑うだろうな。まずコードの哲学を学びなさい。君にとっては秘密の扉を開くようなものだろう。
同時に訓練実習がある。軍事的な訓練だ。アナザーアメリカに軍隊と呼べるほどの組織はない。せいぜい警察隊や自警団だな。だが、ガーランドは基本的に軍人の船で、ヴィザーツのほとんどは軍人と考えてくれ。」
「軍人…。」
カレナードは言い慣れない言葉を舌に乗せ、すれ違うヴィザーツ達に目を走らせた。
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