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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第1章「禁忌破り」

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第1章「禁忌破り」46 新参訓練生編入

艦長は言った。
「各領国からヴィザーツの若者がたくさん来ている。その中の新参訓練生はガーランド精鋭を目指す者達だ。ヴィザーツ屋敷のスコラで選ばれた者がやって来る空の学校。君はアナザーアメリカンで、女王の紋章を持ち、女性の体という三重に特殊な事情があるにしても、16歳という若さだ。だからこそ新しい友人を得たまえ。それが近道だよ」
カレナードの塞がっていた心が動いた。いつの日か自分の意志で生きられなくなろうとも、それまではヴィザーツになるための時間と場所が用意されたのだ。心が塞がったままでいると、この先を生きるのが苦しかった。
「君は出資寮とシェナンディ工業でけっこうな才能を培ってきたではないかね。例の奨学生合格証では人文地史と幾何学が奨励科目になっていた。他にも芝居やダンスが出来るそうだな。歌はどうだ」
「音痴ではありませんが、歌うのは苦手です」
「なぜだね」
「どうも…歌だけは照れくさくて」
艦長はおかしそうに彼を見ていたが、急に真顔になった。
「玄街の首領、グウィネス・ロゥは君にヴィザーツの素質を認めたそうだな。それを磨いて才能にしたまえ」
「ヴィザーツの素質って、何です」
「それは自分で探るのだよ」
研究者の輪から出てきたリリィにマヤルカが食ってかかっていた。
「2年も待つのですか!」
「マヤルカさん、ひとつ手順を間違えば、元の体を取り戻すことは永久に出来なくなることもありうるのです。それでもよろしいか」
リリィの返事にマヤルカは唇を噛んだ。カレナードが訊いた。
「さっきの話にあった遺伝子って、何ですか」
「お前たちの理解の範疇を超えたものよ。訓練生になって、死ぬほど勉強なさい」
「僕はシェドナン奨学生の資格を持っています。理解してみせます」
「オルシニバレは優秀な人材を輩出する土地だそうね。でもレベルは天と地ほど違うの。それに理解したところでお前にはどうすることも出来ない。話は終わりよ。ここから出ていきなさい」
廊下でワイズ・フールが待っていた。彼は気を利かせて、サロンへ戻る途中で外の庭園を通った。冬薔薇が咲いていた。道化は蕾を指ではじいた。
「小生、聞く気はなかったのですが聞こえてしまったものはしょうがない。お二人が男女に女男とは、お気の毒に」
マヤルカはワイズ・フールの話に乗った。
「道化さんは地獄耳ね。どうか言い触らさないでくださいね。ところで、ドクトル・リリィって、どういう人なの」
「あの方の腕前はピカイチでございますが、気位もピカイチでございまして、男勝りでお育ちになったものですから」
「じゃじゃ馬のお医者様なの」
「若い頃はそうでしたね。ずっとガーランドでお祖父さんに育てられ、気が付けば恐るべき研究者に」
「意地悪よね」
「悪気はございませんのですよ、マヤルカ嬢。あれはヴィザーツの中でもサージ・ウォールのように特別お高いプライドがさせるものですから、気にしないのが一番です!」
カレナードが吐き出すように言った。
「彼女は僕達を人間扱いしないんだ」
道化は「偏見はないにこしたことはありませんが、どこの世にもあるものです」と肩をすくめ、トンボ返りをしてみせた。
「小生はお2人が嫌いではありませんよ。なにしろ可愛くていらっしゃる。強くおなりなさい。ここで生きるにしても、地上で生きるにしてもね。小生、時々にマリラさまの代わりに様子をうかがいましょう」
女王と聞くと、カレナードの奥底に刺さったとげが動いた。その痛みと共に前へ進むしかなかった。その日のうちにカレナードは艦長から新参訓練生への編入許可証を渡された。それを見たマヤルカは、いつまでも女王さまの客分ではいられないと叫んだ。
「これ以上ただでご飯をいただくのはシェナンディ家の娘として恥になります」
こうして赤い髪の少女も新参訓練生に加わった。
「さすがはマヤルカ・シェナンディです」
「当然よ、カレナード。私は医師になるわ。いつかオルシニバレへ帰った時のためにね」
サロンのベッドを引払い、2人は新参訓練生棟へ移った。ガーランドが北へ進路を取り、雪で白くなった東オルシニバレ山脈を越える日だった。オルシニバレ市を追放されて53日、玄街との戦闘の中を乗船してから7日目だった。
次回から第2章「新参訓練生」になります。長編なので章ごとに作品として分けることも考えていますが、分けるとしたら第2章が終わるまでに決める予定です。今後とも楽しんでいただけるよう、進めていきたいです。
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