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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第1章「禁忌破り」

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第1章「禁忌破り」43 施療棟のリリィ (挿絵有)

カレナードは高熱を出した。
彼が運び込まれたのは施療棟のリリィ・ティンと彼女の祖父アントニオ・ティンのサロンだった。マヤルカが荷物を担いで来たとき、リリィはサロンを片付けながら散々文句を並べていた。
挿絵(By みてみん)
「アナザーアメリカンを二人も乗せるとは論外でしょう、お爺さま。マリラさまは浮き船のルールを乱すおつもりですか。それはともかく、なぜ私のサロンを彼らの部屋にしなくてはなりませんの。ああ、腹立たしい。ここは私の城です」
「そう怒るな。お前の城は私の城でもある。それでな、今からここに入るアナザーアメリカンの少年と少女は、城に匹敵する価値のある者だよ」
「ふんっ、やつらに価値などありはしません」
「玄街のコードを体中に埋め込まれているらしいよ」
リリィの怒りが少し削がれた。
「埋め込まれてるって、何です」
「少女の体は男性に、少年の体は女性に変えられたそうだよ」
「…なんて趣味の悪いこと…それを玄街がやったというのですね」
アントニオは首をコクコク縦に降った。孫娘は細面の顔に垂らした髪をかきあげた。
「なら仕方ありませんわ。玄街コードの生きた見本となれば、とことん調べさせてもらいます。お爺さま、私が主導権をいただきますわ」
「ああ、コード解析はお前の方がよくやるだろう」
ドアの影で聞いていたマヤルカはひるまなかった。荷物を下ろし、淑女の歩き方で堂々と彼らの前に進み出た。
「初めまして。お目にかかれて光栄です、アントニオ・ティンさま、リリィ・ティンさま。オルシニバレ市より参りましたマヤルカ・シェナンディと申します。
私の望んだことではありませんが、生きた見本となりました以上、どうぞお役立て下さいませ。よろしくお願い申し上げますわ」
リリィがマヤルカを標本のように見た。アントニオは喜んで、握手した。
「これは良い覚悟だ。よろしくな、赤毛のお嬢さん」
サロンの半分が空いてベッドが入った。カレナードはその上で熱に浮かされたまま眠り続けた。
さっそくリリィは彼の担当医宣言をし、助手を呼んだ。
「彼の衣服を全部取って。強力な清拭コードをかけます。マヤルカさん、あなたもよ。」
「私達は汚いものではないわ」
リリィはカレナードの腕に点滴の針を指しながら、鼻で笑った。
「お嬢ちゃん、地上の雑菌をサロンに持ち込まれちゃ迷惑なのよ。服も靴も荷物も消毒ブースに入れてもらうわ。」
「野菜や魚はどうなのですか、リリィさん」
リリィは冷ややかに言った。
「ここで私をそう呼ぶ人はいない。ドクトル・リリィと言いなさい!」
ガーランドで初めての夜、ベッドは一つしかなかった。
サロンには素晴らしい装飾の大窓があり、マヤルカはそこからガーランドの景色を見た。船体中央に並ぶ大小の天蓋、その両側で空に伸びている4本の滑走路、甲板。天蓋の下の木立と畑と建物、よく分からない構造物。見上げると天蓋を支えるフレームの曲線が美しかった。雲が間近にあり、マルバラ領国の灯は遠かった。
「本当に来たんだわ…。カレナード、私達は浮き船に受け入れられたわ」
彼は小さく「うん…」と返事をしたまま、眠り続けた。水を飲ませたあと、マヤルカはサロンの長椅子で寝た。サロンの主人は冷たかったが、眠る場所があるのは幸いだった。
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