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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第1章「禁忌破り」

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第1章「禁忌破り」41 死線

「レブラント、こっちへ来なさい」
ヤッカ隊長が昇降口の壁の窪みに彼を連れていった。窪みはドアだった。内部には直径1mの円板があり、円板の中央に2mの棒が立っていた。棒の先は銀色の太い鎖が連結され、鎖は天井の奥深くへと続いていた。ヤッカは説明を始めた。
「お前は今からこの円板に乗り船底から100m降ろさたまま、16時間宙吊りになる。その間、誰もお前を手助け出来んぞ。準備に15分やろう。遺言を書くか」
「書きません」
彼は急いでマヤルカのところへ行った。荷物からマフラーやロープ替わりのベルトを取り出した。セーターを着込み、皮の手袋を履いた。
「これを持っていって。暖かいわ」
マヤルカは彼に自分の毛皮付きの帽子を着せ、彼の上着のポケットにビスケットをねじ込み、さらに水筒とリキュールの携帯瓶を渡した。自分のポケットの懐炉を取り出してカレナードの腰のポケットに入れた。懐炉の火は断崖の焚き火から取っておいたものだった。
「行ってくるよ、マヤルカ」
「待ってるわ。もう一度私に顔を見せるのよ!」
気丈な彼女の振る舞いが嬉しかった。
昇降口の警備兵たちが見ていた。あのピード・パスリも見ていた。女王と女官達もじっと見ていた。
彼らの視線は「あの禁忌破りは死ぬだろう」と語っていた。カレナードは「期待には沿えない」と視線を返した。
円板に乗り、ベルト2本で自分と棒を繋いだ。帽子やマフラーが飛ばされないようもう一度しっかり結んだ。
ヤッカが降ろすぞと言いに来て、皆に見えないように素早く小さな袋を差し出した。彼の目は「持って行け」と言った。それは警備兵用の携帯食だった。
「しっかり掴まってろよ。オンヴォーグ、禁忌破りのカレナード」
オンヴォーグとは、ヴィザーツだけが使う言葉で、幸運を贈るという意味だ。
円板の下にあるはずの床が消えた。冬の夜が口を開けて待つ暗闇へと円板は下がっていった。冷たい風がカレナードの消えたドアから吹いてきた。マヤルカはドアが閉じられるまでそこを見ていた。
翌日の午前8時、ヤッカは小部屋に閉じ込められていたマヤルカを連れ出し、望遠鏡を渡した。
朝日に光る銀鎖の先で、カレナードの体は体幹がかろうじてベルトとマフラーとマントによって棒に括りつけてあった。帽子が棒の周りで揺れ、両脚は円板の外へ投げ出されていた。生死は分からなかった。ヤッカは言った。
「私は彼の無事を望んでいる。」
マヤルカは泣きたいのをこらえていた。
「ヤッカさん、彼が死んだら私は生きてられないわ」
「君は少し眠っておきなさい。彼が戻ってきたら、君は彼を介抱することになるだろう。施療棟は昨夜の怪我人にかかりっきりだ。」
「私はひとりぼっちになるわ」
「先々を悪く考えてはいかん。悪いイメージは追い払うんだ、マヤルカ嬢。彼は女王に身を捧げ、ここに来た。彼の願い通り、我々は君を元に戻す術を探すだろう。」
ヤッカは今から訓練生の実習があるから、失礼すると言い残して去った。代わりにピード・パスリがマヤルカを部屋に戻しに来た。
「女王さまに会えないかしら」
「会ってどうする。ヤツの命乞いなら無駄だぞ。禁忌を犯せばそれなりの代償が要るんだからな」
「彼は私のためにそうしたのよ」
「お前のためでも、やったのはヤツだ。もう少しで終わるんだ、おとなしく待ってろ」
マヤルカは、偉そうにしゃべるピードに腹を立てた。彼女は突然走り出した。
「どうあっても女王さまにあの玄街の女のことを話すわ!」
彼女はこれまでのいきさつを誰も聞かないことにも腹を立てていた。勝手が分からないガーランドの通路で、何人かのヴィザーツとぶつかった。ピードが叫んだ。
「お前が騒ぎを起こすと、ヤツの立場が悪くなるだけだぞ!」
マヤルカは聞いていなかった。
「その赤い髪の女を捕まえてくれ!ドルジン!」
前方にいた大男が彼女の腰をとらえて、ひょいと持ち上げた。
「せめて私の話を誰か聞いて!」
彼女は再び小部屋に閉じ込められた。
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