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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第1章「禁忌破り」

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第1章「禁忌破り」38 断崖に御加護を

翌日、カローニャ軌道列車南部地方線でタラ高地を目指した。ガーランドが停泊している湖畔を通り過ぎ、マルバラ領国のキャドルー地方へさしかかる場所へ来た。そこは東オルシニバレ山脈南端の断崖が長さ35kmも続く、天然の境界線だった。断崖端までがカローニャ領国、断崖下がマルバラ領国のキャドルーだ。
マヤルカはタラ高地独特の頑丈な馬に話しかけた。
「あれは野生の山羊ね。よしよし、お馬さんは驚かないのよ」
馬は小さな荷車を引いていた。カレナードが手綱を握り、マヤルカは銃を腰に下げていた。断崖見物の観光客用遊歩道が途切れた先は、滅多に人のこない野生動物の世界だ。馬を借りた観光案内所からは16kmの距離にいた。
「この季節だもの。熊は寝てるでしょうね。コヨーテは飢えてるわ」
「この先で火を焚く場所を探しましょう、マヤルカ」
「そうね。ガーランドは今日中に来るわ。平らな所があるはずよ」
朝方の冷たい空気がタラ高地からキャドルーへと流れ落ち、崖の下で雲海になった。マヤルカは、ほうっと息を吐いた。
「天にいるみたい…。そう思わない、カレナード」
「ええ、きれいです」
「あなた、とんでもないことをするつもりでしょう」
いきなり切り出されてもカレナードは動じなかった。
「駄目よ、黙ってたって分かるんだから。あなたがやろうとしてることは…」
カレナードは唇に指を当て、それ以上言わないでくれと合図した。マヤルカは静かになるかと思ったが、そうはならなかった。
「絶対に成功させるのよ。ガーランドに乗らなきゃ。あたなのために私に出来ることがあるならやるわ。そうでしょ。
ガーランドに乗ってからだってそうよ。ヴィザーツばかりの浮き船で、アナザーアメリカンはあなたと私だけなのよ」
彼女は同じ呪いを持つ者の肩を叩いた。気迫があった。叩かれた方は応えた。
「頼みます、マヤルカ・シェナンディ」
さらに1km進んだ所で広い荒地に出た。石の隙間に申し訳程度の草が生えていた。2人はタラの高原都市で調達していた大量の固形燃料を、大文字のMに横線を一本加えた形に並べ、その上に薪を積んだ。それは「女王マリラ」を表わす紋章だった。ガーランドから見えるように紋章の幅は100mに及んだ。強風が吹いた。マヤルカは強風に耐えた。
「なるほどね、木が育たないわけだわ」
彼女は分かっていた。
「カレナードは私のために自身を計りに掛けようとしている。ガーランドの女王の計りに。だから、あんな顔をしている。ふっ切れて寂しそうな別れゆく者の顔、私を巻き添えにしたことで苦しんでいる顔だわ」
彼女はしっかりと薪を組んだ。最後のチャンスなら限りなく成功に近づけなくては。やがて荒地にマリラの紋章が出来上がった。太陽は高くなり、風はやんだ。
カレナードは馬に鞭打って、荷車を出発させた。
「さあ、無事に帰れ。野犬に会うなよ」
馬はもと来た方へ去っていった。静かな断崖の岩の上で、2人は本当に2人きりになってしまった。
「これで準備はいいわ。火をおこして何か食べましょう、カレナード。地上で最後の食事よ」
「宿でシチューを分けてもらったのを温めます」
「ご馳走ね。パンと林檎だけよりうれしいわ」
しっかり食べたあと、焚き火の傍で寝転んだ。暖かい午後の間、2人は眠った。身支度し、荷物を最低限にまとめている時だった。金と黒のトール・スピリッツが上空を飛んだ。
「ガーランドが来るわ!カレナード!」
「トール・スピリッツがこんな所を…なぜ…」
カレナードは旋回して飛び去る機体にヤッカ隊長を感じた。しばらくの後、北東の彼方にガーランドがきらりと輝くのが見えた。カレナードは口の中で、禁忌の文言を唱えた。一字一句を反芻し、覚悟を新たにした。
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