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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第1章「禁忌破り」

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第1章「禁忌破り」37 海幸(うみさち)

昨夜、間違えて38話を予約投稿しました。読者のみなさまは混乱なさったのではないでしょうか。申し訳ありません。
「いい店があったわよ。大公会堂の近くで見つけたの」
食事の間はガーランドにまつわる話はしない約束をして、2人は暖かい魚のスープをとった。揚げたタコ、じゃが芋と鰯のグラタンも注文した。
海辺の食堂の裸電球を吊った鎖がかすかに揺れた。ガーランドが出航する時刻だ。宵闇が降りる頃、青い窓の向こうに浮き船が180度回頭するのが見えた。無数の灯火が船体に沿って光り、周囲には鱗粉のような煌めきがたなびいた。夜の波の一つ一つに浮き船の光が落ちて揺らめいた。
食事中の客も給仕係も、しばしの間、スペクタクルな光景に見入った。マヤルカは窓の外からカレナードへと視線を戻して微笑んだ。
「さすがはシェナンディ家の娘でしょ。美味しい店を嗅ぎ当てるんだもの」
「さすがです。塩漬けじゃない鰯は初めてなんですよ。タコも凄く美味しい」
「あとでタコせんべいを包んでもらうわ。持って行きましょう」
大人ぶってデザートはビター・オペラにした。ハーブを加えた鮮やかなピンクのゼリーだ。
「苦くないの、カレナード」
マヤルカはビター・オペラのとても控えめな甘味を頼りにデザートをやっつけていた。
「いい苦さですよ。僕にはこれくらいが、いえ、もっと苦くてもいいんです」
「あなた…意外に大人なのね」
「そうでもないですけど、少しはそうだと思いたいですね」
マヤルカはカレナードが目を伏せてゼリーを口に運ぶのを見て、そこにフロリヤの姿を重ねた。彼の仕草は女のそれではないが、どこかに女の雰囲気を感じ、急いで打ち消した。訊きにくいことを思い切って訊いた。
「私、前より力持ちになったのよ。本物の男には敵わないでしょうけどね。あなたはどうなの」
「この前、トラックによじ登りましたよね。あの時、僕は全然余裕がなかったんです。自分の体と荷物を持ち上げるのが精一杯でした」
「毎日腕立て伏せしてるのはそのせいね」
「いい感じもあるんですよ。どう言えばいいのか…よく分からないけど…」
「体が慣れたんじゃないかしら」
「お嬢さんはどうなのです」
「悔しいけど、自分の体だもの。大切にしなきゃ。だからってムキムキマッチョにはならないわよ。朝も晩も『私は女』って念じてるわ。正直なところ、ちょっとしたことで男っぽいことをしたって感じることもある」
「何です」
「写真撮るとき、思わず仁王立ちになったわ」
「それは違いますよ。もともとお嬢さんは怒るとすぐ仁王立ちになって…」
マヤルカはビター・オペラの皿をカレナードの方へ押しやった。
「残りは全部あなたがどうぞ」
宿に戻ってから、カレナードは明朝オーサを発つと言った。
「ガーランドを追うのね」
「オーサのヴィザーツ屋敷でガーランドに乗れる文言を教えてもらったんです。1回しか使えない言葉ですから、ここでは言いません」
「本当なの。そんな大事な言葉をヴィザーツが本当に教えてくれたの。信じられない。簡単なことじゃないってヤッカさんも言ってたじゃないの」
「そのとおりです。ヒントをもらいました。それで僕は分かったんです」
「何なの。私にはさっぱりだわ。どういうことなの」
「約束してください、マヤルカ。おそらくこれが最後のチャンスです。ガーランドがタラの崖に来た時、僕を絶対に止めないでください」
「私には分からないことだらけよ。説明して、カレナード」
カレナードは口をつぐんだまま、助けなければならない少女をじっと見た。
「あなたは何をするつもりなの」
「お嬢さんを助けたいだけです。どうか約束を」
「では私の約束も守ってね。元に戻るまでずっと一緒よ。忘れないで」
「忘れません」
返事はしたものの、心中で彼女に謝った。いつ別れの時が来るかは彼にも分からなかった。彼はこの約束に関してだけ、マヤルカを騙し続けると決めていた。それが彼女のためだった。
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