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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第1章「禁忌破り」

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第1章「禁忌破り」36 覚悟、あるや無しや

カレナードは山手にあるヴィザーツ屋敷に向かった。
彼に心当たりがあるわけではなかった。歩いて落ち着きたかったし、歩くうちに何か考えでも浮かぶかもしれないくらいの気持ちだった。
オリーブの生垣が延々と続く一画にヴィザーツ屋敷の大門が現れた。調停開始式から7日間、庭園はアナザーアメリカンに開放され、門は開け放しになっていた。門衛が横柄に呼び止めた。
「おい、オルシニバレの元出資寮生」
オルシニバレ市での出来事はすでに届いていた。
「勝手に入るなよ。ここの最高責任者が庭の奥のテラスに来いと言うまで待ってろ。女男」
彼は電話機を取って返事を待つ間、カレナードを好奇の目で見た。
「お前、罪人だろう。まともな働き口はないぜ。体を売るんだな。珍しいから値は高い。なんなら100ドルガ払って、初めての男になってやろうか」
カレナードは怒りと羞恥で血が沸きそうだった。だが、これが現実の自分なのだと思い知らされた。
「彼の言うとおりだ。今までが幸運だった。たまたま僕達が追放刑になった罪人と気づく人がいなかっただけだ。ガーランドに行けないまま約束の3ヶ月が来て、この体で生きることになったら…!」
奥と連絡がついたのか、門衛は行けと顎をしゃくった。屋敷のテラスから初老の女が視線を注いでいた。彼女は白い髪をなびかせ、淡いピンクとベージュのガウンを羽織っていた。
「何を求めて来た、女の少年」
最高責任者である女の言葉は厳しかった。
「ガーランドを追ってきたのだろう。なすすべはないようだな。仕方なかろう、自らまいた種ならば、その結果に苦しむのは当然だ、罪人よ」
カレナードは女の凝視に耐えられなくなって、その場に膝をついた。女はさらに続けた。
「我々に出来ることは何一つないぞ」
カレナードの頬に今までこらえてきた涙が落ちた。門衛の侮辱には耐えたが、自らの罪の重さに打ちのめされたのだ。彼はうずくまったまま、言った。
「マヤルカ・シェナンディを元に戻したいのです。彼女は何の罪もなく巻き添えになりました。自分の身で贖えるならそうします、どうか出来ることを教えてください…」
初老の女はその身と引き換えにするかと訊ねた。彼は震えた。もう一度、女は言った。
「その身をかけられるかと、訊いておる。返事を聞きたい」
その声音は、方法はあるのだと言っていた。マヤルカの体を元に戻し、罪を贖うためにはそれだけの覚悟を背負えと促していた。彼はうなずいた。
「この身を…引き換えにします」
「すでにいくつも禁忌を犯したお前のことだ。残る禁忌は女王マリラに名と身を捧げることくらいであろう。さあ、去ね。ここの責任者たる私は忙しい」
彼は思い出した。女王はかつて言ったではないか。
「父を助けて欲しいか、ならば我に名前を捧げるか、我に心を捧げるか、心臓を捧げるか。命を捧げるか。魂は捧げぬか」
6歳のカレナードがアナザーアメリカ最大の禁忌を破るのを、マリラは最終的に押しとどめたが、それはいまだ有効であると示していた。女は彼の覚悟を問い、最後の手段を教えたのだ。彼は屋敷に入っていく女の後ろ姿に、一礼した。
道を戻りながら自分の心に何度も聞いた。女王に全てを捧げる禁忌を犯すことで、マヤルカを助けることが出来るなら、恐れはしなかった。むしろ、その方法が残っていたことに感謝した。それで命を落とすことになっても嘆きはしないだろう。マヤルカは悲しむが、元の体に戻るだろう。そして新しい人生を生きることができるだろう。罪を償うにふさわしい道を見つけ、その道を行こうと決心した。
山手の坂道から海が一望できた。ガーランドが出航準備に入り、海上の漁船や輸送船が港に入るか、外洋に出るかしていた。
あの船におわす女王マリラ。
1ヶ月前の完了祭の最終日、フロリヤに声をかけた女王マリラ。
10年前、この身を救った女王マリラ。
「我が身を、心を、魂を捧げます。どうか、引換えにマヤルカをお救いください」
潮風を受けながら、カレナードは心に禁忌破りの文言を刻み始めた。
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