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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第9章「飛翔」

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第9章「飛翔」61 夜間飛行のあと

小生意気な少年にしか見えないピードだが、彼の内実が大人の男と分かれば、今までのカレナードは自分の無鉄砲さに赤面するところだ。
しかし、彼の中で何かが変わってしまっていた。体から落ちた毛布を肩にかけ、彼はふと遠くを見た。
「ピード、思い出しました、フロリヤさんがあなたに大人を感じると言ってたこと」
「フロリヤって誰だ」
「オルシニバレのシェナンディ家の御長女です。マヤルカ・シェナンディのお姉さん。調停完了祭の時にゴンドラであなたが助けた人です」
「ああ。あの背が高くて、つかみどころのない女だな。白いドレスを着ていた」
ピードはよく覚えているようだった。
「彼女が俺を大人だって言ったのか」
「フロリヤさんは洞察力のある人です」
「本質を見抜く翡翠色の眼…か。ふふ、美人だよなぁ、彼女」
ピードは優しい笑顔を見せた。それからちらっとカレナードを見た。
「お前がどんな女になるのか楽しみだぜ」
陽が昇り空がすっかり青くなるころ、大勢のヴィザーツが第三甲板に詰めかけた。
誰もが白日の下に晒された女王の心の相手、そしてサージ・ウォールの向こう側を確認した人物をひと目見ようと集まってきた。
ワレル・エーリフは仮眠していた長椅子から上着を取ると、傍らで眠ったふりをしているワイズ・フールを蹴飛ばした。
「お前は女王を見世物にしてしまったぞ。この馬鹿道化め」
道化はひらりと起き上がり
「こと女王様となると艦長殿は心配性でいらっしゃる。我輩は喜ばしいでありますよ。
皆さまはこの騒ぎを『雨降って地固まる』たぐいのものとよく分かってますからね。 昨夜の一件で女王様の御心はいっそ慰められ平らかにおなりだ。
そしてカレナード嬢が側付きをやってくれれば、小生も本来のお役目に専念できるというものなり。いかが?」と両手を広げて見せた。
エーリフは眉根を寄せた。
「君が復帰したいと願うのは、何かの予兆かね」
道化はいつになく静かに言った。
「備えは多いほど良いでしょ。では小生、ヒーローの帰還に立ち会ってきますよ」
道化が去るとエーリフは一人ごちた。
「さすがの道化もあの者が男か女か決めかねている」
第三甲板を見下ろせる大窓からはトールスピリッツ二機とベラ・スリーが着陸態勢を取るのが見えた。
人々の群れを見てピードは笑った。
「えらいことになっているぞ」
「ええ、たいへんな罰になりそうだ」
カレナードも笑った。昨日とはまるで別人だと、ピードがまた笑う。
痛いほどの視線が集まった。女官のアライアが待機していて、ついて来なさいと言った。
彼は戸惑いなく歩き始めた。ガーランドに戻る夜間飛行の空に、それまで必死に抱いていた小さな自分を捨ててきたのだ。
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