挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第9章「飛翔」

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

381/388

第9章「飛翔」58 Atlantique!(アトランティーク)

「トールスピリッツは!」マリラは最後の望みをトールたちに託した。
「三分で接触!」
答えたのは道化の顔をしてないワイズ・フールだ。
ベラ・スリーの高度はついに2900mに達した。カレナードは激しく揺れるコクピットから右に現れるはずの海を切望した。
絶命するまでの数秒にひと目見るだけでよかった。
「もう少しだけもってくれ!」
彼の叫びがあいかわらず開きっぱなしの通信回線からガーランド中に響いた。
「オンヴォーグ、レブラント!」
情報部で、教官室で、施療棟で、新参訓練生棟で、いたる所で幸運の言霊が唱えられた。
高度は限界へと近づいた。
懸命に操縦するカレナードの呻きが途切れ途切れに管制室に届いた。緊迫した時間が流れていった。誰しも一秒一秒がこれほど長く感じたことはなかった。
静かにエーリフが言った「高度3000」
次の瞬間、特型飛行艇のキャノピーに亀裂が走る音がした。飛行艇はそこから一気に300m上昇し、バランスを失い始めた。
グライダー機能だけで上昇しきったエンジンはすでに止まっていた。
カレナードの体は操縦席から浮き上がり、シートベルトは効力を失いつつあった。左手でかろうじて操縦桿を握り締めていた。
その時、サージウォールの上限から藍色にうねるものが見えた。
大西洋だった。
「マリラさま!海が、海が見えます!」
カレナードは叫んだ。藍色の海原に白波が立ち、それが遠くどこまでも広がって、やがて遥か東方から迫る夜に消えるさまを見た。
それはアナザーアメリカでかつて誰も見たことがない光景であり、彼は死を忘れて見入った。
「ずっと向こうまで青い海が!大西洋アトランティークです!」
管制室ではこの偉業に立ち会った者のため息が起こったが、カレナードの声はそこで消えた。
飛行艇の尾翼が持ち上がり、急激にひっくり返ろうとしていた。
カレナードの体は操縦席から逆さまになったままキャノピーに押し付けられていた。
「はぁッ!」
彼はいよいよ死ぬ時が来たと知った。それだけだった。
キャノピーが割れ始め、カレナードの体はその破片と共に外へ放り出されつつあった。彼の左手は無意識にシートベルトを掴んで腕に絡めた。最後に海が見えた。彼は風の中で気を失った。
通信は完全に途絶え、管制室に静寂が満ちた。
キリアンの傍らでマリラは通信機を握りしめていた。彼女は何度かカレナードの名を呼んだ。
応答はなく、カレナードの死を確認する作業が待っているのだとエーリフは息を吸い込んだ。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ