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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第9章「飛翔」

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第9章「飛翔」57 飛べ!大西洋

ガーランドのヴィザーツ達は女王の苦悩を初めてじかに聞いていた。彼らは、威厳を脇に置いた一人の女の正直な言葉に驚いていた。
しかし、それを哂う者はいなかった。
マリラは真剣にカレナードに語りかけた。
「そなたをそこまで追い詰めたのは私だ。価値が無いなどと決め付けるな、カレナード。
そなたは私にとって唯一無二だ。
私は確かに化け物だ、2500年を生きた身だ。だが、石の片隅にも未だ愛しい者を求める心が残っている。
それを否定したのは私自身だ。愚かな女王なのだ。
トルチフの大火以来、私はすっかり愛に不器用になってしまった。許せ、カレナード。聞いているか」
飛行艇がサージ・ウォールに突っ込むまで、一分を切った。
嵐の壁は遅い午後の陽を浴びて、朱色を含んでいた。
カレナードは飛行艇から暴風の壁に沿って巻き上がる乱気流を目で追っていた。あと数分の命だということを一切忘れ、彼は一筋の風の道が上昇していくのを確認した。
ベラ・スリーは機首を大きく左へめぐらせると上昇し始めた。
「止めるのだ!カレナード!」
遠くガーランドの管制室でマリラが叫んだ。
「この女王が膝を折って頼むのだ、帰れ!帰って来い!特型でも3000mの高度は取れぬ!死んではならぬ、カレナード!」
「僕はあなたが願いながら出来なかったことをします。サージ・ウォールの遥か向こうのあなたの故郷に続く海を見ます」
マリラはまさかと思った。
大西洋の彼方、古い歴史の地、女王の血の系譜の話を少年がこれほどに覚えていたとは。
管制室の隅に控えていた新参訓練生たちであったが、突然キリアンが管制官に通信機を十秒間借りると申し出るや、女王からマイクを奪った。
「聞こえるか、カレナード。こちらキリアン。いいか、あの上滑空飛びで行け!エンジンを気流に合わせて絞り込め。
おまえなら出来るさ、オンヴォーグ!」
V班の全員が次々にマイクを渡した。
「オンヴォーグ!カレナード!」
「オンヴォーグ、キリアン!男子V班!」
返ってきたカレナードの声は覚悟を決めた者の声をしていた。
管制官は飛行艇の高度を報告し続けていた。
「高度2200m、2250m、2300m」
エーリフ艦長がきわめて冷静に指示を出していた。
「ペースが早い。飛行記録を録っておけ」
カレナードは飛行艇を上昇気流に次々乗せていった。サージの黒灰色の塊の間には確かに気流があった。
「高度2600!」
飛行艇は急激に押し上げられた。大きな気流に乗ったのだが、気圧変化の凄まじさに機体が嫌な音を立て始めた。
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