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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第9章「飛翔」

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第9章「飛翔」53 嘆きの壁

女医はそれも事務的に答えた。
「99%可能よ。Y遺伝子はいくらでも動かせるわ。まるで宿り木のようなもの。それに比べたらX遺伝子は強い。とても強靭だわ」
「彼女は必ず元に戻れますね」
リリィは少しムッとした。
「99%と言ってるでしょ。彼女のことは私達に任せておくことね。あなたね、女性もいいものよ」
カレナードは急いで施療棟を離れた。
エレベーターに向かう道で目まいに襲われた。彼の心は怒りと絶望で塞がっていた。女王と罵り合った時よりも大きな哀しみで胸は張り裂けそうだった。
彼の足はベランダ小部屋へと向かった。
下層天蓋層の大通路で、どこかへと急ぐ彼の姿をキリアンとミシコが見かけた。
「カレナード!おい!」
声は雑踏に掻き消えた。他にも兵站部のヤオセルやスティレら、カレナードを知る数人が声をかけたが、彼には届かなかった。
ベランダ小部屋に上がる扉を開くなり、抑えていた激情が噴き出した。彼は叫びながら階段を駆け上がり、百合の透かし彫りがある壁に激突した。
「僕の体を返せ―――――――ッッッッッ!!!!」
絶叫だった。
彼は何度も体を壁にぶち当てた。尖った彫刻が鋭い痛みをもたらしたが、彼はすでに感じていなかった。いや、感じていたが、体の痛みなど問題でなかった。彼はさらに拳で壁を叩いた。
「返せ、返せ、返せ!僕の体を!体を返してくれ!男の体を返してくれーーーッッッ!!」
両手はすぐに引っ掻き傷で血に滲んだ。
「くそおおぉぉぉぉ―――――ッッッッッ!男が宿り木だって!ドクトル・リリィ!そんなわけ、あるはずがない!Y遺伝子が宿り木であるわけがない!」
やり場のない怒りはさらに皮膚を痛めつけた。
彼は叫びながら額を打ちつけようとしたが、あまりに上体を反らしたためにバランスを失い、床に転んだ。床は冷たかった。
怒りが哀しみに転じた。
彼は慟哭した。
「どうしたらいいんだ…。僕の望みは…全部無くなってしまった…。どうすれば…助けて、父さん…!」
床に涙が溜まっていった。いつしか彼は肩で息をしていた。床に押し付けていた顔を外に向けると、遠くにサージ・ウォールが見えた。傾きかけた太陽の光が長く伸び、オレンジ色を帯びた北メイス領国の辺境の果てで、それは吹き荒れていた。黒々と渦巻く嵐の壁に魅入られたように、彼はじっと眺めた。まるで救いを求めるかのように。立ち上がってメンテナンス通路に出た。
「父さん…あなたの所に行きます。…僕は…死にます…」
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