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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第9章「飛翔」

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第9章「飛翔」51 願望と現実

霜一しもいちの月は北メイス領国の調停開始式に先立って、大規模な補給が予定されていた。ガーランドはアナザーアメリカ最北東のサージ・ウォールに近づきつつあった。
初冬の空気が浮き船を包んだ。身が引き締まるような朝の冷気が訓練生棟にも降りてきた。
だが、カレナードには新たな葛藤が生まれていた。彼はまだ相当に不安定だった。
「僕だって許せるものなら…。
でも二の月の事とは違うんだ、あの時は互いに知らない者同士の誤解があった。僕は体のことを隠していたし、彼は出生の秘密を隠していた。
僕は彼の何が許せないんだ…。彼にとって僕が女性だったことなのか。それを隠してずっと男同士の友人でいたことか。僕が男のままだったら…」
彼は急に光を見たような気がした。
「そうだ!体が復元したら、男の体に戻りさえしたら、キリアンは僕に変な気を持たないですむ!女の体だから、こんなことになったんだ…」
カレナードにとって、それは最後で唯一の拠りどころに思えた。
女王と決裂し紋章人としての存在意義は不確かなままとなった。同時に彼女への想いを自ら破壊した傷は深かった。そのうえ親友まで失うのは耐え難かった。
彼はキリアンに激しく怒る一方で、同じくらい仲直りを求めていた。
「週末に施療棟へ行こう。マヤルカお嬢さんのこともある…。このまま進級しなくていいのか、カレナード」
少しは気合いが入った。
彼は浮上の足掛かりを逃すまいと、自分を叱咤した。
週末は補給のまっただ中で、主要通路に荷物を満載した台車とコンテナと人があふれ、飛行艇の発着音が響いていた。その中を抜け、カレナードは施療棟への道を歩いた。土曜の講義は昼過ぎに終わり、いつもより早い時間の検診だった。
彼はリリィ・ティンが復元可能の結論を用意してると決めてかかっていた。それは切ない願望だった。復元が可能でないと考えられるだけの余裕はなかった。
数日ぶりに青く晴れた空が輝き、彼の望みをさらに押し上げた。
彼は想像した。
「体を取り戻したら…男物の服をフロリヤさんに送ってもらおう。ビスチェのお礼をマイヨール先生に。そう、区切りの記念に。出来たら髪を切ろう。これは女官長の許可が要るんだっけ。ジーナさんに申請しなきゃ」
連想で現れた女王の姿を心から追い出した。
「リンザ・レクトーと付きあうのもいいな。彼女、お高いようで可愛いところがあるし、体のラインが綺麗だ」
妙に高揚したまま、リリィの前に座った。
彼を待っていたのはあまりにも非情な宣告だった。
「カレナード・レブラント、あなたは生涯を女性として送るしかない。解析チームは体の復元は不可能と断定したわ」
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