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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第9章「飛翔」

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第9章「飛翔」50 後を這う傷

十の月の終わり、進級試験まで40日となった新参たちの眼の色が変わり始めた。その中でカレナードだけが時折り幽鬼のように表情を失い、マイヨール女史の講義さえうわの空だった。
歴史教師は彼を教官室に呼んだ。
「トペンプーラも気にしていたわ。女王御教授の中断が堪えているのではなくて」
マイヨールは年若い友人が泣くのだろうと思った。しかし、彼は感情を引っ込めた。
「堪えています…とても…でも、全部済んでしまいました。僕は二度と女王に会いません。彼女にとって消えた存在です」
マイヨールは事態の深刻さを察知した。慎重に扱わなければならない…。
「話を聞いていいかしら、カレナード」
少年は首を振った。
「もういいんです、終わったことですから」
彼は立ち上がった。マイヨールはそっと声を掛けた。
「話したくなったらいつでもここに来るのよ。試験が近いわ。集中力が要るわよ、カレナード」
「マダム・マイヨール…、僕はヴィザーツになれますか。ガーランドに居てもいいですか」
「ええ、きっとヴィザーツになるわ。ガーランド・ヴィザーツに。そうなったあなたを見たいわ」
カレナードに少しだけ安堵の色が戻った。マイヨールは彼の手を握りしめた。
V班のカレンダーが霜一の月(11月)になった。
カレナードはようやくシャルとアヤイの誘いにのり、休日の図書館に出向いた。帰りのエレベーターでホーンとキリアンと鉢合わせた。
キリアンが本のバリケードを築く癖など忘れ切っていたのだ。
一同はとんでもなく気まずかった。キリアンが短く「すまない」と言った。
カレナードに怒りが宿り、両手がわなわな震えた。何も答えずにいるとキリアンが再び短く言った。
「許してくれ」
二人の間ではシャルとアヤイとホーンが沈黙したままでいた。下層天蓋層に着くや、カレナードは走り出た。それをキリアンが追い駆け、残りのメンバーも一斉に走った。キリアンが叫んでいた。
「返事してくれ、カレナード!」
ホーンらが追い付くと、カレナードは肩を掴もうとするキリアンを振り払っていた。
「触るな、裏切り者!」
「聞いてくれ、カレナード。お前の言う通り、俺は裏切り者だ。お前を傷つけるつもりはなかったが、傷つけた。許せないなら気が済むまで罵れ。殴れ。頼む、俺に罰をくれ」
一瞬、カレナードは静かになった。だが、後ずさりすると身を翻して走り去った。シャルが言った。
「すぐには無理さ、キリアン。紋章人だって苦しいんだ、分かるだろ」
アヤイとホーンは顔を見合わせた。
「航空部新参候補生としては、チームワークが心配だよ…。いつまた特型飛行艇のテストがあるかもしれないんだからさ。マギア主任とヤッカ隊長に愛想つかされるぞ」
キリアンは彼らにも「すまない」と頭を下げた。
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