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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第9章「飛翔」

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第9章「飛翔」49 止められなかったもの

カレナードは女官相手に大立ち回りをした。それも女王が現れるまでだった。マリラの灰色の眼が冷たく見据えるとカレナードは女官たちの武具で動きを封じられてしまった。
その先は女王と紋章人の罵り合いになった。黒い天鵞絨のドレスを纏った女王はさながら魔女となり、冬の制服のカレナードは清楚な色に似合わない奇人だった。
狼藉者の確保に加わったベル・チャンダルはカレナードの左手を後ろに回して抑え込んでいた。凄まじい熱量がカレナードから放出されていた。
「この子は…なぜ、こんなにも狂ってしまったの。取り返しがつかないことになるのよ、カレナード!そしてマリラさまも一体どうなさったの!」
マリラはいつになく感情の嵐に身を任せていた。沈着冷静な仕事の顔も優雅な普段の仕草も、怒りの炎に舐めつくされていた。
「これほどの痴れ者とはな!小僧がたかだか浮き船に拾い上げられたことでいい気になりおって!」
カレナードはそれ以上に猛り狂った。
「拾い上げたのはどこの誰か、もうお忘れですか!そうでしょうとも。浮き船の重鎮だけを記憶に残して生き脱ぎを続ければ、あとは自動的に入れ替わるのがガーランド・ヴィザーツとでもお思いですか!
だからあなたは冷たいのです、血の通わない女だ、まるで石像だ。誰も信じてないのと同じだ。なのに信頼だけは受け取って当然としている。
何が女王だ。ただの老女じゃないか」
「言わせておけば愚弄するしか能がないとは、グウィネスに憑かれるも当たり前だな、カレワランの息子。玄街の女の息子であれば、こうも毒を吐くか!」
「母は玄街とは限りません!あなたこそ、なぜ僕がグウィネスに乗っ取られている間に始末しなかったのです。そうすれば、鬱陶しい紋章人も一緒に始末できたのに!あなたは馬鹿だ!」
「半人前のヴィザーツにもならない者が女王を馬鹿呼ばわりするか。犬の糞にも劣る奴め!」
二人は睨み合ったまま、歯軋りをした。その息は上がりかけていた。
「僕を殺せばいいんだ!」
「それほど死にたいか!」
「老害!」
「下衆め!」
二人の激しい応酬はマリラが自己制御を失う寸前まで続いた。女官長は咄嗟に合図し、カレナードの鳩尾をアライアが突いた。それでも彼は気を失わなかった。まだ顔を上げようとした。
「…マリラ…!あなたには人間の魂がない…」
女王は黒い袖で口元を覆った。低い憎しみの声で命令した。
「紋章人は今後一切出入り禁止だ。私の前から消えよ」
カレナードは近衛の短槍で散々叩かれ、ボロ布のように女王区画から去った。
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