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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第9章「飛翔」

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第9章「飛翔」44 胸の血

女王は左手で剣の束を握っていた。右手には例の冊子があった。
「そなたへの最後の教授を用意したというのに、かくも見苦しく我が近衛を煩わすとは。恥を知れ!」
カレナードはまだ落ち着いていた。
「お叱りは覚悟のうえです。恥が何かは存じております」
「では、これを持ち帰るがよい」
両脇の近衛兵がカレナードの腕を掴み、石畳に引き倒した。肩に近衛独特の短槍の柄が押し付けられた。無様な格好で喘いでいる紋章人に女王が近づいた。彼女は立ったまま、冊子を無造作に落とした。
カレナードは首をねじるようにして女王を見上げた。乗船時と同じ石像のような彼女がいた。石像の女は磨き上げた鞘を紋章人の顎に当てた。
「二度とここに入れると思うな。次に現れた時には今以上の屈辱を与えてやろう。仰向けにしろ」
近衛兵は女王の命令に従った。ジーナはマリラの背中に怒りと冷静さを見たが、ベルはもっと恐ろしい何かを感じた。
押さえこまれたカレナードの首元に女王の剣が置かれた。剣は抜き身になっていた。
「レブラントよ」
女王は彼を名前で呼ばなかった。
「女王の力は悪であるとその身で確かめるがよい」
重く冷たい真剣がカレナードの制服をゆっくり上から下へと裂いていった。彼は叫んだ。
「あなたがどのように拒絶の殻を被ろうと、僕は知っています。あなたが何を欲しているか、あなたが…!」
右の乳房に痛みが走った。マリラの剣が彼の制服の下で胸の帯を切り、ビスチェの中の胸が動いて刃の先に当たったのだ。
マリラは剣を引き上げ、手首を返すとビスチェの上に剣を打ち下ろした。
「鬱陶しい!みねうちで済んだことをありがたく思え!」
血の滲んだ胸元を押さえ、カレナードは下層天蓋層へのエレベーターに乗った。手には激しく折れた冊子が握られていた。すぐ下の階でトペンプーラと情報アナリストのカンナが乗り込んで来た。
カンナは胸の傷に清拭コードをかけようとしたが、トペンプーラは止めた。
「女王もやり過ぎですが、あなたも同様デス。ここ数日のあなたの行動は情報部でも話題になっていたのですヨ。友人として言わせてもらいます。ここで痛い思いをしたのは幸いです。少し頭を冷やしなさいネ」
カンナはトペンプーラの言葉が終わると清拭コードを使い、カレナードの乱れた髪を撫でつけた。
彼は悔しかったが、泣かなかった。マリラに傷つけられたことより拒絶されたままでいることに耐えられず、次の方法を探していた。彼はまだ諦められなかったのだ。
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