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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第9章「飛翔」

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第9章「飛翔」43 恥と知りつつ 

「教授の間、彼が傍にいることを楽しんでおられましたね。女王」
「何が言いたい」
「ナイフを与えたのならば、気を持たせるような振舞いはなさらないのが彼のためでございます。食事を供したのは間違いでした」
マリラは腕組みをした。
「彼がいかに懸想しようと私は応じぬよ、ジーナ。だから、彼を優遇するのはかえって残酷と言うのだな」
女官長の喉元が『女王は無意識では応じている』と動く前にベルが短い手紙を持ってきた。マリラは感情を出さずに読んだのち、それを捨てた。
翌日、施療棟での観察期間を終えたカレナードはすぐさま女王区画へ向かった。さっそく近衛兵が彼をエントランスで止めた。押し問答の末に女官長とベルが現われた。
「紋章人殿、再び玄街の女があなたの体に現れる可能性の有る無しにかかわらず、御前に進むことはなりません。女王の御為を思うなら帰りなさい。あなたの手紙への返事はこちらです」
ベルはカレナードに小冊子『トール・スピリッツ建造に関する考察』を渡した。中にはマリラが詳しい解説メモを書き込んであった。カレナードはそれをベルに返した。
「マリラさまのご配慮に感謝いたしますが、会えるまで毎日参ります。そうお伝え下さい」
その日から、カレナードの女王区画参りが始まった。五日目に近衛兵が二名増員され、八日目にはエレベーターから降りるなり近衛小隊に取り囲まれた。それでも彼は諦めなかった。
キリアンはもう止めろと言った。
「ここは大人しく女王の小冊子を受け取れ。それで引き下がってみせれば、またチャンスがある」
「また会える保証がどこにあるんだ。玄街コードの影響のない君には分からないさ…」
「何も見えなくなっているんだな、お前…」
「恥くらい知ってる」
ジーナとベルが同じことを考えていた。
「女官長さま、レブラント訓練生は恋慕で我を忘れています」
「女王に引導を渡していただきます。近衛たちがあきれ果てる前にね」
十二日目、ついに女王がエントランスに現れた。彼女は帯剣していた。
近衛兵に両脇を挟まれたカレナードはマリラに再び透明な殻を感じた。硬い殻で出来た、女王の心の檻である。
「紋章人を離せ。レブラントは一歩だけ前に寄れ」
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