挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第9章「飛翔」

362/388

第9章「飛翔」39 グウィネス憑依

カレナードの胸は再びざわめいた。
「では、グウィネス・ロゥも生き脱ぎを」
「分からぬ。ウーヴァとあれが何らかの契約を交わしたとは思えぬ。だが、四百年前からあれの記録は途切れていない」
「玄街の首領は代々同じ名を受け継いでいるのでは」
「私も以前はそう考えた。が、あれは四百年の間、同一人物だった。それを裏付けるのがこれだ」
女王は厳重に固定コードのかかったファイルを取り出した。
最初のページは創生歴2134年が刻まれ、銅板画の指名手配用肖像が収めてあった。ページをめくるたびに時代ごとの黒い衣装のグウィネスが現れた。
オルシニバレの小路で対峙したときと同じの、陰鬱な光を放つ眼と石膏のように白い肌。
銅板画から石版画へ、あるいは油彩やスケッチへと移りつつも、グウィネスの肖像は同一人物のそれだった。創生歴2420年以降は写真で見ることができた。
カレナードは微かに震えた。この女がマヤルカと自分の運命を変えたのだ。写真の中のグウィネスの顔から、眼を逸らすことができなかった。あまりに熱心に見入っている自分の生徒から、「もういいだろう」と女王はファイルに手を伸ばした。
その瞬間、彼の目から光が消え、体は椅子から軽い音と共に滑り落ちた。
「どうしたカレナード!」
ジーナとベルが駆け寄った。カレナードは起き上がったが、その動きは彼のものではなかった。声が変わっていた。
「ふふ、さすが我が右腕、カレワランの血を引く躰よの。よく馴染む」
邪悪な声だった。
「若い躰は移り易い。久しぶりだな、浮き船の船主殿、マリラ・ヴォーよ。私が分かるか」
マリラは唇を噛んだ。
「グウィネス・ロゥ…!」
カレナードは完全に乗っ取られていた。彼の意識は玄街のコードで体の奥に閉じ込められ、もがいていた。鳶色の眼は鬱蒼とした影を帯び、口元に薄ら笑いが張り付いた。そのくせ動きは優雅で軽やかだった。
マリラは身じろぎもせずにグウィネスを睨んだ。
「用事があるなら、他人に憑依せず自ら出向くが良いぞ。今すぐカレワランの息子から去れ」
カレナードは威高々に笑った。
「この躰は我々のコードを仕込まれたというのに、お前たちのチェックはこの程度か。彼が私の顔を心底から思い出した時に意識を明け渡すよう、付加コードを貼っておいたのにな」
「その者におぞましいコードを掛けただけでは飽き足らず、精神までも!去れ、グウィネス!」
「まぁ急くなよ、マリラ。五十年ぶりだぞ、茶の一杯も出さんのか」
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ