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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第9章「飛翔」

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第9章「飛翔」36 月の膝枕

若い女官はカレナードの肩にもたれ、月を仰いで蒸留酒を飲み下した。透んだアルコールの香りがふわりと宙を漂った。
「ベルさん、二重スパイって何してるんですか」
「玄街の仕事を続けてるふりをすることよ。女王の様子をグウィネス・ロゥに伝えてるふりをね。今はトペンプーラの指示通りに嘘半分を送ってるわ」
「玄街の首領がガーランド女王にそれほどの関心を持ってるんだ…」
「グウィネスも女ですもの。彼女のことは次の教授でマリラさまが語って下さるわ」
とうとうベルはカレナードの膝に横たわった。携帯瓶は空になって転がった。
「私たちは仲間よ、不思議な人。私たちはマリラさまをお慕いする玄街絡みの仲間なの、ふふふ」
「ベルさん、笑い上戸なんですか。そこは間違いなく僕と同じだ」
「そんなに酔ってないわ、あなたの膝が暖かいわ、ふふふ」
ベルはすぐに寝息を立て、カレナードはブランケットを引き寄せて女官の体に掛けてやった。
「確かにあなたと僕は仲間かもしれませんね…。あなたも玄街という過去に傷ついている」
月が白く上がる頃、ベルは目覚めた。すっきりした表情に戻っていた。
「道化の弱味を一つ教えておくわ。彼はかつて玄街に潜入したヴィザーツで、洗脳されて女王暗殺のために帰ってきたわけ。だから、彼に『玄街男』って小声で言ってやるの。他の人に知られないようにね。彼の唯一の支えは女王陛下直属のプライドだから、真っ青になって狼狽えるか、腑抜けになるわ」
「それ言われるとかえってキレる感じがしませんか、最近の彼は」
「彼は荒れてるのね。どちらにしてもかなりの打撃になるわ。本当に最終手段よ。知ってるのは古参の女官と幕僚だけだから」
「僕は深入りしたんですか」
「もうとっくにそうなってるわ。どうか紋章人は将来の側近として覚醒してちょうだい、マリラさまのために。そして、自分のために」
「自分のために…」
「私は充分にやりきったと思って目を閉じたいわ。ねえ、明日死ぬと知ってたら…マリラさまのために…」
第四甲板を戻りながら、カレナードは自分の恋は身勝手な想いだろうかと自分に問わずにはいられなかった。ベルは覚悟を新たにしたのだ。女王のためなら彼女は命を惜しまないだろう。
「僕は…」
赤いブランケットがあちらこちらで銀色の甲板に揺らめいた。夜に咲く幻の花のように思われたが、すぐにうつつの凶事が花開くと、二人は知らなかった。
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