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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第9章「飛翔」

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第9章「飛翔」35 ヴィザーツの憂鬱

紋章人は叫びそうになった。
「本当に寝物語にする話ですか!」
「女同士の垣根は低いの」
ともかく粛清の時代、血で血を洗ったヴィザーツの一時代が確かにあったのよ」
ベルは携帯瓶を傾けた。
「その頃のガーランドは今より短い第一甲板と第二甲板に上層天蓋と機関装甲だけ。地上基地の飛行艇がたった二十機で着艦して乗っ取れるくらいだったの。もちろん当時の艦長や幕僚の大半は寝返っていたわ。いずれにせよ、ヴィザーツ組織は硬直したあげくに腐りきっていたのね」
「それほどヴィザーツの境遇は厳しかったのですか」
「ヴィザーツもアナザーアメリカンと同じ人間ですもの。人口が増えたヴィザーツの中には律法に縛られていると感じる者が多かったのね。富とコード技術を蓄積する一方で、閉塞感があったのは間違いないわ。飛行艇の開発に成功した結果、サージ・ウォールの外側に飛べないことも分かった。いっそ有限の土地と空間を支配しようとしたのかも。
1676年のテネ城市第三屋敷の代表たちが「律法は破られるためにある」と公言し、瞬く間に周辺の屋敷が同盟した。
その頃は今と比べものにならないほど制限事項が多かったのよ。
『アナザーアメリカンへのコード教授禁止、技術開発は秘匿義務を負う。違反者は死罪』
『領国府関係者との収賄は重罪である』
『ヴィザーツ屋敷でのアナザーアメリカン滞在は時間制限を設ける』
『アナザーアメリカンとの婚姻は追放刑となる』…史料を読んだでしょう」
「テネではとっくに禁止条項が形骸化してたんですね。ストイックに生きて調停システムに一生を捧げられる人ばかりじゃないにしても…。
ねえ、ベルさん、玄街の人たちは調停システムを壊したいのでしょう。ストイックなんて真っ平なんでしょう」
ベルはまた携帯瓶からひと口飲んだ。
「律法を壊したい衝動がヴィザーツの中に生まれ、頭上のガーランドと船主の座を欲する傲慢が育ち…。幾分かは玄街に受け継がれたわ…」
「秩序を壊してどうするつもりなのでしょう。あなたは御存知なのでは」
ベルは人差し指で少年を制した。
「そこまでは知らない」
女官の髪が少年の肩に落ちてきた。
「その先は女王にお聞きなさい。数えきれないほどの危機を乗り越えて来た方から聞くのよ。ヴィザーツ屋敷が過剰に蓄積した富とコード技術を差し出させた代わりに律法を緩め、組織を刷新して五百年の内乱期を収めたのよ」
「その時、外れのヴィザーツ屋敷が生まれたんですね」
「限りなくアナザーアメリカンに近い位置に生きるヴィザーツたちね。そして、なぜかしら、ガーランドはより巨大に、より強力な戦艦になっていったわ…」
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