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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第9章「飛翔」

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第9章「飛翔」33 銀の涙

ミセンキッタ大河沿いの町の灯が眼下にまたたく頃、ベルとカレナードは女官専用エレベーターにいた。
「今夜のサンドイッチはどう、紋章人さん」
「大盛りにして下さったのはあなたですか」
「そうよ。で…私に訊きたいことがあるでしょう。今日の講義はちょうど玄街発祥の項だったわね」
カレナードは少しばかり考えてから、口を開いた。
「ベルさんの話どおりとしても、今のあなたはガーランド・ヴィザーツです。スパイはわざわざ正体を明かさないでしょう。僕をからかったんですね」
「正直に言っておくわ、私は玄街のスパイだったの。そして今もマリラさまをお慕いしてるの。あなたに妬いたから、困らせたかったの。ごめんなさいね、カレナード。
でも、マリラさまが私の迷いを察して下さって、やはり私は女王の女官でいていいと分かって…恥じているところよ」
お高い女官の仮面が外れ、ベルは普段は見せない恥じらいを頬にのせていた。
「ベルさんの過去を知っているのはマリラさまだけですか」
「いえ、ロロブリダ女官長が御存知よ。私の監視係なの。私ね、今は二重スパイの試用期間中だから」
「僕にバラしていいのですか」
「あなた、口は堅いでしょ。それにトペンプーラあたりも承知済みよ」
ベルは天井を仰いだ。
「スパイ失格だわ、ふふふ」
「そうですね。ベルさんはマリラさまの傍で女官の仕事をしている方がお似合いです」
カレナードは操作盤のボタンを第四甲板で止まるよう押し、艦内電話を使った。
「観月会に付き合ってください、ベルさん」
「私、非番じゃなくてよ」
「僕が女官長にお願いしますから」
第四甲板の端っこまで行くと、二人は貸し出しの赤いブランケットを床に敷いて座った。銀色の月の明かりが甲板に降り注いでいた。
ベルは髪留めを外してポケットに入れ、代わりに蒸留酒の携帯瓶を取り出して飲み始めた。
「あなたって…不思議な人ね、カレナード」
「それ、前にも言ってましたよ」
「不思議な人。恋敵なのにね」
「今も妬いていますか」
「そうね…妬いていると言えば妬いているし、妬いてないと言えば妬いてないわ。あなたも私もマリラさまの閨には入れないんですもの」
「新しく恋人を募集してはどうです」
「あなたこそ」
カレナードは胸の痛みを隠して言った。
「僕はまだあきらめていません」
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