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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第9章「飛翔」

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第9章「飛翔」24 それは願いから生まれた

夏の終わりの空気が朝の接見室に満ちた。約束の時刻に女王は待っていた。
「テネの戦いのあと、私は決心していた。アナザーアメリカで二度と人間同士に戦争をさせてはならぬと」
そう語るマリラの眼差しは遠かった。
2000年前のアナザーアメリカよりまだ遠かった。
サージウォールで地球が諸地域に分断される前の戦争の記憶が、彼女の眼差しの先で黒い炎のように揺れていた。
「古領群が崩壊していくにつれてアナザーアメリカンはテネのヴィザーツを統治者とみなすようになった。要請に応え、浮き船の女王が一時的にアナザーアメリカの王を務めた時、彼女はウーヴァと契約した理由をやっと知った」
女王が三人称で自分を呼んだのを、カレナードは当然のように受け止めた。
「彼女が不死の船主になった理由をお聞かせください」
マリラの眼差しは過去から目の前の紋章人に戻った。
「私は人間が持つ暴力の性質を否定せぬ。それも人間の一部だ。だが、それを領国間の問題解決に用いぬ方法を確立したかった。テネの戦いに至る古領の武力衝突は、繰り返される暴力の歴史そのものだったからだ」
カレナードはマリラの言葉を反芻した。彼は訊いた。
「創生前の歴史では戦争が続いていたのですね」
女王はうなずいた。
「アナザーアメリカより遥か昔、人類が文明を手に入れて一万年、その歴史は戦争の歴史だった。それをこの有限の世界でも続けるのか。
古領連合軍と戦う意義を喧伝し士気を鼓舞し、正義は我らにありと言いながら、勝利の後始末がどのようなものか、私はうすうす知っていた。
テネで自ら銃を取った時、はっきり分かった。戦う理由を正当化すればするほど狂気に近づく。正義はほとんど無くなる。アナザーアメリカンは閉ざされた世界で互いに食い合い、潰れてしまうだろう」
「調停機関成立のいきさつを教えていただけませんか」
「…そうだったな。
私は浮き船と地上のヴィザーツに新しい使命を与えた。
ヴィザーツ組織を支えるヴィザーツ律法を制定すること。開発したコードを駆使し、浮き船を整備し直すこと。ヴィザーツ屋敷を都市ごとに置くこと。
さらに調停機関として小領各地の代表者と碩学を集め、新たなアナザーアメリカの法整備を行うなど、調停を機能させる屋台骨を作っていった。
新たな秩序を欲していたアナザーアメリカンは調停の考え方と制度を受け入れた。悲惨と混乱の世に疲れた彼らが望んだからこそ、ヴィザーツも応えたという面もある。
いずれにせよ、誕生呪と調停はヴィザーツのもの、領を統治する営みはアナザーアメリカンのもの。そのように決まった時、アナザーアメリカの人間たちは安心したのだろう。新しい時代のために調停を学ぶ労を惜しまなかったのだ」
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