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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第9章「飛翔」

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第9章「飛翔」22 その昔、御先祖さまは

薄暗くなった下層天蓋下に降りても道化はあとを付いてきた。
「何か御用ですか」
「いえいえ、今宵の小生は暇にまかせてブラブラ歩き。新参訓練生棟までご一緒しますよ、もっとも今頃を逢魔が時と言いましてねッ!」
道化はいきなり背後から抱きついた。
「何するんです!ワイズ・フール!」
首筋に道化の湿った舌が這うや、カレナードは肘鉄を振った。道化はひらりとかわし、お尻を突き出してペンペンした。
「乙女の香りが美味でござった!」
「くそっ、色ボケフール!」
道化はヒヒッと嗤って姿を消した。カレナードは歯軋りした。
「ベル・チャンダルが言ったとおりだ。女王区画のどこからか教授の件が筒抜けになってる。まったく…!」
その夜は食堂でヴィザーツ古史の話に花が咲いた。ナサール・エスツェットはテネの戦いに詳しかった。
「戦いは第一次と第二次に分かれた。古領連合軍は18000人。当時は槍と剣で武装した騎馬と歩兵だ。あと馬が引く戦車な。
我らがヴィザーツの御先祖さまは銃火器と大砲で迎え撃った。連合軍は仰天したが、こちらの兵員は圧倒的に足りない5000人。訓練期間が短くて精鋭部隊だけ編成し、残り全員で後方支援。
この時テネの北6kmに防御城壁を建設したのが10万人の御先祖さまと味方についた大河周辺のアナザーアメリカンだ。
マリラ女王は殺戮の先頭に立ったと言われている。第一次は城壁からの大砲で蹴散らして終わり。連合軍は4000人くらい死んだ。
問題は第二次だ。誕生呪がないことが彼らを死にもの狂いにさせた。このままヴィザーツを取り戻せずに死ぬのも戦って死ぬのも同じだったんだろうな。砲撃をものともせずに攻城機械を引っ張って来たんだ。お前ら出来るか。砲弾が飛んでくる方に向かって、馬で引いていくんだぜ」
ホーン・ブロイスガーが言った。
「人間、死ぬ気になればやるさ。俺たちだって、きっとやるさ」
ミシコは頷いて、ナサールに訊いた。
「つまり戦いに不慣れなヴィザーツが白兵戦をやったのか」
「年代記では壮絶だったとさ。女王自ら銃を手に、終いには剣を握り、連合軍を屠ったと。カレナード、女王はその辺はどう仰ったんだ」
「テネを守るためなら、何万という弾を浴びせるのにためらいはなかったって。一切の容赦なしだったと」
ナサールは腕組みをした。
「そうだよな。調停機関になる前のことだ。勝たなければ浮き船は存在意義を失うんだ。結局、ヴィザーツ側も900人近く戦死だ」
古史にあまり強くないシャルが訊いた。
「ふうん、それでマリラさまは浮き船を調停機関にして、アナザーアメリカから戦禍を追放することにしたのか。で、古領はそのまま滅んでしまったのか」
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