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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第9章「飛翔」

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第9章「飛翔」21 必要悪の存在 

道化は珍しく地味な装いだった。いぶし銀の立襟ブラウスに同じ色のハーレムパンツ、帽子だけが白い蝶々のようにひらひらと羽を揺らしていた。
カレナードは挨拶を返した。
「こんばんわ、ワイズ・フール」
横目で様子をうかがっている情報部員を尻目に道化は本を取り出した。
「ご教授の復習をしてはどうかと、小生、これを持ってきたのですよ」
彼の手には『アナザーアメリカ古領群』があった。
「どうしてそれを」
カレナードの問いには答えず、道化は鼻歌まじりに巻末の史料統計を示した。
「こちらをご覧あれ。
古領群動乱期の戦死者は古領兵士が150万から170万人、民間人が70万から100万人。大半は動乱期後半の流行病による戦病死ですな。
次に誕生呪の欠如と事故による赤子の死者が30万から50万人。事故とは不完全な誕生呪のために数年後に突然落命するものですよ。
専門職のヴィザーツが不在ならアナザーアメリカンは自力で誕生呪を唱えるより手がありませぬが、所詮は素人仕事。
どうです、紋章人。古領の赤子を見殺しにした浮き船の船主は軽蔑に値しませんかね」
ねっとりした視線を投げかけながらも、道化の声には真剣味があった。彼のいつものおちゃらけが消えていた。
カレナードは女王といた時と同じくらい素直に答えた。
「浮き船の船主も当時のヴィザーツも辛かったと思いますよ。赤ん坊に誕生呪を授けてこそのヴィザーツだったのですから」
道化は肩をすくめた。
「こりゃまた、えらいお勉強ぶりで、小生の出る幕無しですな。
でもね、これだけは言っときやしょう。女王が一番大事にしているのはアナザーアメリカ。この世界。この秩序。
そのためならヴィザーツが何人死のうとかまわない。部下の命は自分のもの。
紋章人、あなたもそのうちの一人に過ぎやせんてことです」
道化は渋い顔で睨んでいる情報部員にイーーーーッと憎まれをしてやった。それから彼も渋い顔になった。
「ああー、張合いがないったら。なんで紋章人は小生に文句の一つもぶつけて来ないんですか。準公文書すりかえ事件の犯人を目の前にしてるというのに」
カレナードは道化の汚らしい文才を思い出した。
「最初の麗しい詩が台無しでしたね」
「小生、女王陛下を冒涜するつもりはありません。ただ、あなた、男の獣性が騒いだのではないですかっ!えっ、違うって!堅物でございますね、紋章人!」
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