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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第9章「飛翔」

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第9章「飛翔」20 月夜とは限らない

カレナードは問うた。
「貴女も戦場に出たのですか」
マリラは『ガーランド前史』から抜いた紙を紋章人の方へ押しやった。
「当時の女官長の記録だ。これを読み返すまで、私自身がテネの戦いを忘れていた」
集中して読み始めたカレナードは、女王が密やかな視線を向けているのに気づかなかった。控えているベル・チャンダルは気づいていた。
「マリラさまが紋章人に何を望んでいらっしゃるのか、私には関係ないことよ…」
乾いた紙の音がした。紋章人は丁寧に記録を閉じた。今度は女王が問うた。
「恐ろしいか。私はヴィザーツの王として殺戮の先頭に立ったのだ」
「『女王、鬼神の如く闘えり。屍の上を走れり』と書かれています。
信じがたいですが、調停の船になる前のことですから嘘ではないでしょう。
それに貴女は何よりも、御自身よりも、世界の秩序を大事になさる方です。貴女は仰いました、『避けて通れぬ道ならば行くまでのこと』と」
「いつ、それを聞いたか」
「女王代役を賜りましたおりに、偶然に」
マリラは一言だけ「そうか」と返した。ベルは静かなやり取りに触れていた。
「今、マリラさまは完全に教師でいらっしゃる。紋章人も素直だわ。…これがずっと続きますように…」
一時間はすぐに過ぎた。次の講義は休日の午前九時と決まった。すぐに女王はコード開発セクションの研修会へと去った。
カレナードは生々しい歴史の軋みを感じながらも、女王が生き証人として語った姿に感謝していた。
夏至祭で踊り手として対等だった数時間とは別の、語り手と学び手として、率直に耳を傾け合った余韻が嬉しかった。
キリアンが見れば、今のカレナードは輝きではなく、不思議な穏やかさに満ちていただろう。それはやはり女王によるところが大きいが、彼自身も夏至祭のときの彼ではないのだ。
ベル・チャンダルは女王区画のエントランスで彼を見送った。彼女は言った。
「あなた、最近ワイズ・フールとは会ったの」
「いえ。彼がどうかしましたか」
「なら、ボンゾ教官の授業は続いているの。また投げられているの」
「どうしたんですか、マダム・チャンダル。何かあったのですか」
ベルはハッとした。彼女はふと余計な気を回している自分に驚いていた。
「悪かったわ。このことは忘れてちょうだい。私、どうかしてたわ」
「僕はワイズ・フールがボンゾ・エンゾが同じ人だって知ってます。彼には気をつけています。大丈夫ですか、ベルさん」
「ええ、すぐに落ち着いてよ、カレナード」
その道化は、下層天蓋層へのエレベーターで待ち受けていた。カレナードが乗り込むや、道化もするりと箱に入った。同乗の情報部員の間を抜け、当然のようにカレナードの横に立った。
「こんばんわ、紋章人」
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