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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第9章「飛翔」

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第9章「飛翔」17 古領カンバの収容所

午後の実習がすべて講義に振り替えられ、新参訓練生は実習服の代わりに夏の略式制服を着ていた。カレナードも水色と白のブラウスにロンサール・ブルーのズボンを履き、襟元に細いタイを締めた。
夕刻のいちばん空腹を覚える時間帯だったが、それさえ充実を感じさせるものに変わった。
女王区画へのエレベーターの中で、彼は右手を左手の紋章に重ねた。
「女王の紋章…。これはガーランドで何らかの役割を担う公人の印だ。
マリラさまが女王である時と同じように、さあ、カレナード、プライベートを引き離せ」
気が引き締まり、恋慕はうまく隠れた。そして彼は数々の疑問を解くために、教授の卓に着いたのだった。
女王は白いリネンのワンピースを着て、彼と向い合せに座った。
「では、そなたの第一の問い『ヴィザーツの成立過程に関する詳細』から始めよう。
アナザーアメリカ創生の頃、ヴィザーツとアナザーアメリカンの区別はなかった。理由は分かるな、紋章人」
「誰もが起動コードを使っていたためでしょう。出産は時と場所を選びませんから」
「では、両者の分離はどこから始まったのか。そなたはどう考える」
カレナードはマイヨールの授業と同様に答えた。
「数の問題ではないでしょうか。起動コードを間違って使う人間の数が増えたため、コードの専門職が生まれたと考えます。同時期に助産所が組織的に設置されたのではありませんか。そこではコード開発と制御の研究も行われたはずです」
「数の問題は確かに大きな要因だった。そなたが言うように助産所をシステム化するには常駐のコード遣いが必要で、数を確保するためにしばしば争奪が起こったのだ」
「それがヴィザーツの始まりですか」
「最初にヴィザーツの名をつけたのは、古領の一つ、カンバ領府の女たちと伝えられている」
マリラは『アナザーアメリカ古領群』の金文字が押された厚い本を開いた。
「付箋をつけたところを読みなさい」
カレナードは読んだ。
「カンバ領暦106年播種月、妊婦の集団により領都メコンの助産所に80人の誕生呪専門職が監禁される事件が起きた。女たちは領府有力者と豪族の妻であり、裏で一族の男たちが手を貸した。『メコン・ヴィザーツ事件』である。
監禁は半年に及び、その間に領府は法令を布き、助産所に遮音室を設けて誕生呪以外のコード発見と使用方法の開発を許可すること、誕生呪専門職をヴィザーツと呼称すること、彼らへの官費支給と他所への移動禁止など、ヴィザーツの責任と権利と義務を定めた。
専門職にとっては身分の固定化と囲い込みであり、領府の奴隷になるのは認めがたいとして大きな反発を招いた。
また、周辺住民や他領民は助産所の人手不足を予想し、ヴィザーツ養成組織を成したが多くは失敗、人口減少の恐れから暴動が多発し始めた。それに乗じて行われたのがヴィザーツの強制収容である。助産所に登録されていた誕生呪専門家と徒弟たちが各領府や豪族や地方行政府などが用意した強制収容所に送られた。
ここが後のヴィザーツ屋敷の原型となった」
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