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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第9章「飛翔」

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第9章「飛翔」12 女官長、反対する

女王も紋章人も共にナイフの件など忘れた振りをし、お茶の時間を分かち合った。
自然とそうしたのではない。
2人はそれ以外にしようがなかった。どちらかが揺らげば、マリラは拒絶の態度を取り、カレナードは想いのたけを滲ませることになる。そうなれば再び傷つけあうに違いなかったし、繰り返したくもなかった。
接見室の入口近くに控えているベルは奇妙な緊張感を覚えていた。
「紋章人は落ち着いている…でも…」
カレナードは茶を飲み終えた。
「レモンの香りとは少し違います。何ですか」
マリラは茶碗の底を見てごらんと言った。底に細切りの琥珀色の物体があった。
「これはオスティア特産ルビーオレンジの皮を日干しにしたものだ。それを蜂蜜に漬けこみ、さらに干せばこのようになる。夏の終わりには良い飲み物だ。ところで、私に頼みごとがあると」
カレナードは茶碗を脇の卓上に戻し、立ち上がった。
「紋章人として申し上げます。ヴィザーツとなるために、貴女の御助力を必要としています」
マリラも茶碗を置いた。
「私の助力…。どういうことか」
その日、カレナードは約束を取り付けた。週に1度、女王の個人教授が許可された。
マリラは女王の顔で数秒思案したのち約束した。
「では、ヴィザーツの成立過程から始めよう。歴史学をよく復習して来なさい。マイヨール女史が有史を論じるなら、私はその原点を語ろう」
いきさつを知ったジーナ女官長は不服だった。
夜の膳の後、彼女はマリラに食い下がっていた。
「私は反対でございます。紋章人への特別授業など、もってのほかでございます。彼はいけません、あの者だけは」
「ジーナ、そなたはエーリフ艦長以上に心配症なのか。あ奴は私がガーランドを離れるとなるとタガが外れたように心配をする。そなたはレブラント訓練生を私に会わせまいとする。先日のナイフの件がそうさせるのか」
「あの者の懸想が早々消えたとは思えません。今は温情をおかけになるタイミングではありますまい」
「随分と厳しいな。だが、温情ではないぞ。彼が言う通り、教授は紋章人に対する女王の義務である。教師の私がいかに厳格か、そなたは知っておろう」
それでもジーナは譲らなかった。
「お叱りを覚悟で伺います。私人のマリラさまはあの者をどうお考えなのでしょう。私はそれを確認せずにこの場を動くことはできません」
「ジーナは紋章人にナイフを渡した時の私は私人だったと考えているのだな」
「では…わ…私の勘違いでしたか」
女王と女官長は女同士の目で互いを見た。
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