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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第9章「飛翔」

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第9章「飛翔」11 ナイフと決意

カレナードは一つの決心をしていた。
マリラの小さなナイフを手のひらに置いて、彼は冷静だった。
「リンザが言ったことが、今になってよく分かる。女王を慕う心は分けて置いておくんだ、この刃が鞘に収まっているように」
小さな柄を引くと、氷のような刃が現れた。
マリラと彼の唇を隔て、彼の恋心を断ち切った薄氷が滑らかに光った。
それをゆっくり元に戻した。刃がすらりと鞘に吸い込まれる感触に納得した。シェナンディ精密工業で培った彼の職能が小刀の価値を見抜いた。
「これだ。こころよく収まって寸分の隙もない…見事な技だ…」
恋心に揺らいでいて、一人前のヴィザーツに、そして紋章人になるのは至難だと、直感が告げていた。
彼は女王との契約者として、彼女から直接教えを受ける決心をした。
ヴィザーツの成り立ちについて、その2500年間の変遷について、玄街の発生について、玄街の首領グウィネス・ロゥについて。
両者の存在意義について。
彼の疑問の原点は全て女王にある。
女王が彼の命に責任を持つなら、紋章人の役割が明確になるよう助力することも責任の一部ではないのか。
紋章人にはその権利があってしかるべきではないのか。
新参訓練生は六歳からヴィザーツ屋敷のスコラで学び、準備を十分に整えるのに比べ、アナザーアメリカンだった紋章人はガーランド乗船以後の努力で追いつかねばならない。それを眺めているだけというのは、女王の怠慢と言えなくもない。
彼は怒ってはいなかった。
恋心を切り離せば、彼の意志と心は素直に学びを欲した。そこで彼は正々堂々と要求することにした。
調停完了式が終わった翌日、女王区画にアポイントメントを取りに行った。出航の鐘が鳴っていた。
予想に反して女王には時間があった。彼女は紋章人を執務室ではなく、庭園に面した接見用の小部屋に通すよう命じた。ほのかに秋の気配を匂わせる夕刻の光が白い壁に反射していた。
女王は珍しくブラウスとタイトスカートという軽装で現れた。それは新参訓練生の夏の制服と同じ色だった。その偶然がマリラの態度を柔かくしたのかもしれない。
「ソルゼニン事件はつらかったであろう。私も胸が痛んだ」
彼女は椅子に納まり、カレナードにも椅子をすすめた。そればかりか、ベル・チャンダルが柑橘類が香る茶を運んできた。
「飲みなさい。気を養うには丁度良い香りだ」
2人は静かに茶を飲んだ。2週間前の青い閃光の中でのことが幻と消えたかのような静けさだった。
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