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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第9章「飛翔」

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第9章「飛翔」10 別れのフィドル

カレナードは一つだけ確かめたかった。
「ハーリ、君は玄街なのか。もしそうなら教えてくれないか、玄街の存在意義って何だい」
ハーリは驚き、声を詰まらせた。
「僕は玄街じゃない、違うんだ…カレナード。玄街のために罪を犯したんじゃない。…マルゴ姉さんを助けたかっただけだ。僕もたずねていいかい。女王代役をしたとき、どんな気持ちだったの」
思いがけない問いだった。
「どういう意味、ハーリ」
「不思議だったんだ。男なのに女王になれるのかなって…。ううん、女王が男に近いのかな…」
カレナードの神経はざわめいた。
「僕は志願して代役を務めたんじゃないけど、芯から努力してやり遂げたのだけは確かだ。この体だから女のドレスを着てもどうってことないしね。
ハーリ、僕は君の罪を許すことはできない。
でも、君自信を恨んでもなければ憎んでもいない。長期懲罰をやり抜いてくれ。いつか、また会おう」
ハーリの右手にそっと手を添えた。彼は白い顔のまま、わずかに頷いた。カレナードは付け足した。
「もうすぐ新参代表の一団が会いに来る。リンザは君を罵倒すると言っていた」
「覚悟はできている。カレナード、ヤルヴィに元気でと伝えてくれるかい」
そのヤルヴィは最後の面会者だった。その時、ハーリの頬にはリンザが散々引っぱたいた跡があった。彼は言った。
「彼女、片腕でもすごいコントロールだった。ホーンもナサールも僕を殴ればよかったのに」
ヤルヴィは拘束服を抱きしめて泣いた。
「ミ、ミシコ班長はリンザ・レクトーが皆の分をやってくれたから、だから、自分は手が出せなかったって…ぐすッ」
「ヤル、ごめんよ。君と一緒にフィドルを弾けなくなった」
最年少の訓練生は大急ぎで顔を拭い、持ってきた包みを開いた。
「君がどこの外れのヴィザーツ屋敷に行っても弾けるように軍楽団長に掛け合ってきたんだ。君のフィドルと鞄と弓、それに予備の弦!手入れ用のワックス!倉庫から出してくれたよ」
ハーリは困惑していた。
「罪人が…奏でることを許されるだろうか」
ヤルヴィは「君は名手だ」と叫んだ。
「僕と約束して!必ず右手を治して、もう一度フィドルを持つって!
いいかい、ハーリ、僕は何年でも手紙を送るから返事して。必ず返事して」
「ぼ…僕は女王とカレナードを殺そうとしたんだぞ…」
「でも、友達だ」
ハーリはフィドルの入った鞄を抱いて面会室から消えた。
ヤルヴィは果てしない寂しさを抱いて監房区を後にした。下層天蓋下へ戻るどの大通路も、調停完了式を翌日に控えて磨き上げられていた。華々しい垂れ旗で飾られた通路を最終チェックして回る兵站部のヴィザーツが「明日はよろしく」とヤルヴィに手を振った。
ヤルヴィが儀仗行進曲を演奏する頃に、ハーリはもうガーランドにはいないのだ。
「明日は立派にやってみせる。ハーリのために、僕のために」
決心したヤルヴィは背筋を伸ばして歩いた。
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