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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第1章「禁忌破り」

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第1章「禁忌破り」30 ダナン家の冬至祭

冬至祭の飾り付けをした母屋には男の家族が帰りを待っていた。珍客に驚くこともなく、男の妻ティティーヌは2人を洗い場に連れていき、バケツ1杯のお湯と着替えを出した。ダナンとティティーヌの子供達がわらわら見物に来た。母親が子供達を食堂に追い立てて静かになると、マヤルカが言った。
「こっち見ないでね、カレナード。肩幅が広くなった体を見られたくないのよ。」
「肩は広くなってませんよ。声も変わっていません。」
「ふん、もともと私の声はアルトよ。お姉さまみたいにソプラノで歌えないんだから。」
「力は強くなってるんじゃないですか。自転車の速さは僕と同じくらいだし…。今日だって、逃げる時のダッシュはすごかった。」
「あなたの力が弱くなったのかもよ。カレナード、あなたの肩を見るわ!」
マヤルカは振り向いた。下袴だけのカレナードの後ろ姿は痩せているように見えた。コルセットの胸当ての痕が背中についていた。
「きつく締めすぎだわ。これでよく息ができるわね。」
彼女は熱いタオルで痕のついた背中をふいてやった。
「お嬢さんは人の裸をじろじろ見ないものですよ。」
「私は学校の実習で人の標本も触ったのよ。裸がなによっ。」
「マヤルカ…。」
カレナードが名前だけで呼んだので、彼女は神妙になった。
「な、何…。」
「暖かいお湯に屋根にパンの匂い、いいですよね、こういうのって。」
急に力が抜けた。
「え…えええ…、そうね。ホッとするわ。ねぇ、ダナンさんに気持ちよくお世話になっちゃいましょう。そして思い切りお返しをしましょうよ、私達にできることで。」
「それはいいですね。」
カレナードは着替えを手に取って、うっとなった。毛織の上着とスカートが用意されていた。また姉妹に間違われたのだった。
「レブランドだと。おぬしはヒューゴ・レブラントの娘か。」
運転手の父親はカレナードの名を知って、素っ頓狂に喜んだ。
「親父、娘じゃない、息子だ。」
「ダナンよ、スカート履いてるじゃないか。レブラントの娘だよ。」
「ティティーヌ、なんで着替えにスカートを出すんだ。」
「あら、嫌だわ、姉妹に見えたのよ。ずぶ濡れだったせいかしらねぇ。ごめんなさいねぇ、カレナードさん。あははははは。」
そこにいる全員が笑った。祭りの前夜、夕食のあとは酒が振舞われたせいか、細かいことはどうでもよくなっていた。老人は立ち上がった。
「踊ろう、レブラントの娘さん。」
ティティーヌがフィドルを弾き、老人はカレナードの腰に手を回して踊った。マヤルカはダナンの末っ子を膝に乗せて、彼の話を聞いた。
ヒューゴ・レブラントが16年前にこの町の湧水施設を設計し、この家にも寄ったことがあるというのだ。ダナンはその頃、隣町の豪農で働いていたため数回しか会ってないが、しっかりした男だったと覚えていた。
「あんなに元気なオヤジは久しぶりに見た。明日になって腰抜かさなきゃいいけど。」
老人の一番大きな孫が胸をはって、申し込んだ。
「カレナードさん、僕と踊って。僕はもう8歳だよ。」
ダナンは苦笑した。
「あいつは明日になって怒らなきゃいいけど。」
ティティーヌがけらけら笑った。
「うちは客用寝室がないのよ。子供達の部屋で休んでね。暖かいわよ。」
そのとおりだった。4人の子供達と一緒に眠ると暑いくらいだった。
冬至祭は穏やかにすぎていった。町の公会堂脇の祠にお参りに行き、縁起のいい南瓜菓子をもらって来た。それを全員で分けた。甘かった。
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