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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第9章「飛翔」

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第9章「飛翔」6 脆くも強くも

ハーリはまるで憑き物が落ちたように取調べに応じていた。
施療用監房から情報部に送られてくる調書の内容は、トペンプーラにとって頭が痛いものが多かった。
が、ハーリの動機は純粋に彼の個人的な事情と知り、その一点においては安堵した。
「ハーリまでも玄街間諜でなくて安心しました。
マルゴ・アングレーのことを思い詰めたにしても、あのような恋心は不幸デス。彼は取り返しのつかないところまで行ってしまった…」
目の前にいる紋章人はどうなのか。
トペンプーラは細い目を動かさなかった。
「艦長が看破したとおり紋章人はマリラさまに惹かれています。しかも自覚が出来ている。女王への想いをエネルギーにして進級試験を突破して欲しいもの。
肝心なのは女王デス。彼女が隙を見せなければいいだけデス…」
カレナードは共鳴第三法則と共振半減の法則がv音で結合するさまを図解していた。またしても多くの補助線を引かねばならなかった。それが終わると彼は言った。
「トペンプーラさん、さっき過程が大切と言いましたよね。それは調停とよく似ていると思ったんです」
「どういう意味です」
「領国民たちが対話を重ね、さらに調停相手とも対話を重ねていく、あの感じを思い出したのです」
「今、線を引きながら、そう思ったと」
「オルシニバレの調停準備会は完了祭まで2年近くねばりましたから」
「なるほど。あなたのその感性。失わないでくだサイ。たとえ一人前のヴィザーツと太鼓判を押される日が来てもネ」
だが、カレナードの次の言葉は情報部副長を戸惑わせた。
「その日が来るまで、僕は生きていられるでしょうか」
トペンプーラのポーカーフェイスの下で、何かがざわめいた。
「生きられるに決まってマス。女王と施療棟があなたを徹底的に面倒みますから」
「春分の後、マリラさまが『そなたは長くは生きられまい』と。ウーヴァの波動を身に受けたからと」
「それであなたは自分の寿命を短めに設定してるというわけデスか。確かにアナザーアメリカンの寿命はヴィザーツより短いです。が、たかだか2年の差。流行病で死ぬヴィザーツだって珍しくはないのですヨ。しかし!しかしですヨ、紋章人!」
トペンプーラは考えていたより深い紋章人の傷痕に触れた気がした。
「あなたはそんな弱気でヴィザーツになるつもりなの。なれまセン!弱気が起きたら、振り払うのデス!いいですか!」
彼は年若い友人の腕を掴んでいた。友は静かに言った。
「トペンプーラさん、僕は、自殺なんかしませんよ」
「あ、当たり前デス。命は大事にするものです。で、v音結合は腑に落ちましたか」
掴んでいた腕を離すと、紋章人はそこに自分の手を置いた。
「弱気が起きたら振り払ってみせます」
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