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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第8章「刃(やいば)の夏」

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第8章「刃(やいば)の夏」57 船主のオーラ

駈けつけた施療部ヴィザーツが応急処置を始めた。どこからかマヤルカが走って来て救護の一員になった。彼女のブラウススーツに血が飛び散っていた。それはリンザ・レクトーのものだった。
女王と女官たちが控室から出てきた。女王は肩から大きな喪章を垂らし、棺のそばに立った。
「女官たちは施療部に手を貸しなさい。私はここにいよう」
負傷者は多く、重傷者から順に担架に乗せられた。緊急搬送のサイレンが玄関からこだまのように響いてた。静寂を保っているのはソカンリの亡骸と救護を見守る女王だけだった。
カレナードは壁にもたれかかった。急に寒気がした。汗が冷え、彼はずるずるとへたり込んだ。
悲しかった。
喪章をつけた女王の姿も静かなソカンリの棺もハーリが残した血だまりも、狂ってしまったマルゴの瞳も、ホワイエに響くヴィザーツの足音も、開け放たれた掃出し窓も、すべてがひどく悲しかった。
アヤイと一緒に壁にもたれて座り込んでいるカレナードの正装の下で、冷たいナイフが揺れた。
泣くまいとしたが、止められなかった。彼は膝に額を当てて泣いた。
アヤイがそっと寄り添い「大丈夫かい」と訊いた。
カレナードが顔を上げると女王が遠くから彼を見ていた。昨日と変わらない厳しい視線。だが、その奥には黄金に輝く光があった。
突如として彼は新しい力を感じた。マリラはこの浮き船で起こる全てに責任を負う者のオーラ、すなわち船主のオーラに満ちていた。彼女に全てを捧げた紋章人の鋭い感受の力がそれを見たのだ。
「あれがマリラ・ヴォーの…強さだ…。あの強さに…僕は…応えなければならない。彼女のナイフはそのためにあると思おう」
カレナードは先ほどまでの悲しみが薄れていくのを感じた。体に血がめぐり、気力が戻った。
「僕は行かなきゃ、アヤイ」
「どこへ」
カレナードは立ち上がった。
「救護の手が足りないようだ」
「キリアンとナサールが戻ってきた。行こう、カレナード。マリラさまがあそこに立っていられると不思議と心強いな」
2人は大広間に入った。血と消毒用アルコールの香りが混じっていた。
カレナードは思った。ハーリの愛と憎しみがこの惨状を生んだのだ。ハーリはどうなるのだろう。そしてマルゴは…。彼はハーリとマルゴにやり直せる未来があるよう祈った。それはすぐに救護の喧騒の中に消えた。
この日、大宮殿に夏の日差しは届かなかった。ガーランドは分厚い雲の下を進み、やがてブルネスカ河の霧のむこうに小さくなった。
次回から第9章「飛翔」に入ります。
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