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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第8章「刃(やいば)の夏」

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第8章「刃(やいば)の夏」56 誰も明日の命を知らない

ハーリはミーナを思い出していた。
「あの人が…玄街…」
「ハーリ!ミーナさんは手すりから飛び降りたんだ。僕は見ているしかできなかった。
彼女の死に方はとても惨かった。体はねじ曲がって、しばらく痙攣していた。マルゴさんにはきっと君が必要だ。ハーリ、ミーナさんのようになってはだめだ。君と彼女が一緒に映っていた写真を覚えているかい」
ハーリの目がうなずいた。カレナードは息をついてから続けた。
「マルゴさんは君が大切なんだ」
ボルタは立ち上がった場所から動かずに言った。
「降りてこいよ、マルゴ・アングレーに会いたいだろ。ほら、彼女が来たぞ」
カレナードが振り向くと、ホワイエにトペンプーラに抱きかかえられたマルゴがいた。
トペンプーラはそっと彼女の脚を降ろし、肩を副えて支えた。
「ご覧なさい、マルゴ。あそこにいるのはあなたの知っている人でしょ。ネ」
マルゴはあいかわらず焦点の定まらない目をテラスに向けた。だが、促された彼女はわずかに左手を前に出した。それは少しずつ上がっていき、やがてハーリの方へ差し出された。が、気力が尽きたのか、いきなり気を失った。ハーリはベランダに飛び降り、マルゴに向かって駈け出した。
「姉さん!」
すかさずボルタが彼を捕えた。手錠をかけられても、ハーリは叫び続けた。
「マルゴ姉さん!しっかりして、死なないで!死んじゃ嫌だ!姉さん…」
ヤッカ隊長とドルジンが両脇からハーリを挟むようにして確保した。ドルジンはハーリの右手を血止めのためにきつく縛った。
ハーリはうなだれたまま歩きはじめた。トペンプーラはまたマルゴを抱きかかえていた。彼はハーリに告げた。
「施療部を信頼すべきデス。あなたはまず刑に服さなくては」
マルゴの痩せた体は情報部副長の腕にすっぽり入るようだった。
ボルタは噛まれた腕をさすりながら、アヤイに言った。
「おい、怪我はないか」
「だ、大丈夫です。カレナードが庇ってくれたから」
カレナードはホワイエに戻り、アヤイの横で帽子を外した。
アヤイが言った。
「カレナード、真っ青だ。襟を外すから深呼吸するんだ」
カレナードは防弾チョッキを脱いだ。ブラウススーツは汗で濡れていた。
ボルタは彼の髪をくしゃくしゃとつかんだ。
「レブラント。いい度胸だったぞ。セルゾニンをよく引きつけてくれた」
大広間とホワイエの間の扉がすべて開いた。血の匂いがした。銃弾を受けた衛兵と訓練生がいた。
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