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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第8章「刃(やいば)の夏」

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第8章「刃(やいば)の夏」49 夏のキス・その2

衝動は止められなかった。彼は静かに女王に近づいた。新参の夏の制服が唇を開いた。
「どのような愛人ならお傍にいても良いと」
マリラは青い光の中で微笑んだかに見えた。
「何の欲も持たぬ無償の心でいられる者が…この世にいようか。
いざとなれば女王は恋人よりアナザーアメリカの秩序を選ぶ。こともなげに捨てるのだ。それを受け入れられる者が、この世に…いようか」
すぐ傍のカレナードに向けた眼差しは「そんな者はいない、誰一人」と告げていた。
バリアーに稲妻が接触し、まばゆい白光が女王と紋章人に降り注いだ。カレナードの鼓動が早まった。
「ここにおります、マリラさま。あなたが求める者に、私はなりましょう」
マリラは身じろぎもせず、目の前の女男を見詰めた。その目はカレナードの言葉を静かに吟味していた。
数分後、女官長が戻ってきた。彼女は青い執務室の窓際で重なり合う女王と紋章人の影を見て、立ち止まった。
カレナードは動けずにいた。マリラの右手が彼の後頭部にきつく添えられていた。左腕が無慈悲に彼の背中に巻きついていた。2人は唇を重ねていた。その唇の間に薄いナイフの刃が挟まれ、今にも血を流すかと思われた。恐ろしい光景だった。
ジーナは恐怖を打ち破ろうと叫んだ。
「マリラさま!」
女王は片手で静かに刃を押さえ、唇を離した。
「ジーナ、慌てるな。紋章人にはこの冷たさを覚えていてもらわねばならぬ。私に恋心を抱けばこうなると」
女官長は女王から小刀を受け取った。そしてカレナードが女王に寄り添おうとして拒絶されたことを悟った。
マリラの声は事務的だった。
「ジーナ、これを鞘に入れ、首に下げられるようにせよ。カレナード、そなたの言う簡単な愛も無償の心も、もはや私には要らぬ。
そなたと私の唇に挟んだ刃が今日の返礼だ。それを柔かい胸の間にでも吊るしておくがいい」
カレナードは静かに言った。
「無礼をいたしました。しかし、あなたは永遠に石のように過ごされるのですか」
マリラは振り向きざま、彼を打った。
「ジーナ!馬鹿につける薬はないのか!」
女官長は細い鎖を通した鞘を手にして、カレナードの前に立った。ブラウススーツのボタンを外し、ナイフを掛けた。
「残念ながら、この手の馬鹿につける薬はございませんわ、マリラさま。代わりにナイフが薬の役目を果たすでしょう」
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