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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第8章「刃(やいば)の夏」

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第8章「刃(やいば)の夏」48 愛の地雷原

マリラからは危険な女の香りがした。
「私人のマリラ・ヴォーは恋にはまことに愚かだった。調停の采配を妨げるほどの愚かさだった。
女王のマリラ・ヴォーがどのように諌め、操り、諭そうと、心は勝手なもの。言うことを聞かぬ。そのためにトルチフは滅びたと言ってもいい。
どちらの領主も私に甘言を弄し、裏では戦闘を止めず、あげくに全面戦争宣言をした…。
私は決断せねばならなかった。アナザーアメリカン同士の果てしない戦を見て見ぬふりをするか、調停の浮き船が自ら裁くか。アナザーアメリカンのまつりごとに口出しはせぬと言いながら、私はあの土地を焼いた。最悪の決断だった」
「トルチフの兄弟はそのとき亡くなったと聞きました」
マリラは仕方がないというふうに目を伏せた。
「哀れなことをしたのだよ。
あの時、決めたのだ。女王のマリラであれ、私人のマリラであれ、この身は恋を近づけてはならぬ。また、唯一人の男と契約してはならぬ。この身が引き受けた浮き船とウーヴァの契約以外に契約は交してはならぬ。
ゆえに私は恋文を誰から受け取ろうと、応えることはせぬ。応えれば厄介事は増えるのだ。女王の力は悪であり…私人マリラの性質もまた…悪である」
カレナードはマリラの内に矛盾を感じた。
「なぜ先ほどは喜んで受け取ると…」
「喜びにするのは、ただの一瞬のみ。受け取った途端に手放すべきもの」
「夏至祭の夜のように、いっときの遊びでございますか」
マリラは受け流した。
「エーリフもかつては熱烈な言葉で私に迫った。彼は女王の男として振る舞いたかったのだ。それを許すつもりはない。もし、彼に私を与えれば、私は彼に苦い愛情を持つようになる。そのような事態は御免こうむる」
マリラの向こう側で黒い雲が急激に膨らんでいた。雨が近かった。上層天蓋がうなりを上げて閉じ始めた。女王はその光景を眺めていた。
カレナードは危険を知りながらも愛を舌先に乗せた。
「あなたは情がお深い。情に流されないために個人の愛をあきらめたというのですね。
でも、愛はもっと簡単で…単純ではいけませんか。傍にいるだけのものではいけけませんか」
「甘いことを言う。私の問題だけではない。女王の愛人となった者がどれほど克己心を失いやすいか、考えたことがあるか」
遠雷はすでに遠雷ではなくなっていた。ガーランドは電磁バリアーを展開し、雷雲が通過する間、薄青い稲光に照らされた。その光を受ける女王に近づきたい衝動と共に、カレナードは立っていた。
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