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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第8章「刃(やいば)の夏」

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第8章「刃(やいば)の夏」47 恋バナなどするものではない

女王は用紙をケースに戻した。
「そのあともフールの文だ。美醜の極致を知っている者だけがあれを書く。そなたには書けまい」
「まだ極致を知りませんし、知ったとしてもマリラさまを貶めることは出来ません」
「それは分からぬぞ、カレナード。人の心は移ろいやすい。そなたはまだ若く、ヴィザーツとアナザーアメリカンの間で揺れている。そなたは告白文にそう書いた」
カレナードは小さく頷いた。女王は独り言のように続けた。
「あの二行だけなら、誰が書いたものであろうと喜んで受け取ったものを…」
外では遠雷が鳴り始めた。執務室からテラスへ通じる大窓のガラスが鈍い光を受けた。カレナードは女王の本音を垣間見たと感じた。それが勝手に言葉になった。
「恋文を望みますか」
女王は遠雷に惹かれるように大窓へ寄った。不意に紋章人を振り返り、窓を背にしたまま、両腕を窓ガラスに広げた。
「喜びではあるが、真には受けぬよ。紋章人」
声には苦味があった。
「遠いトルチフの大火が私に教えたのだ…ガーランドが犯した大罪。マイヨールが歴史学の講義で詳しく語ったであろう」
「両トルチフの領主に出した調停勧告文書を図書館長に見せてもらいました」
「髭の館長か。そなたは彼から余計なことを吹き込まれなかったか」
カレナードはマリラに誘導されていると分かっていたが、答えた。そうしなければ、彼女に近づけそうになかった。
「トルチフの兄弟領主がガーランド女王に結婚を申し込んだことでしょうか」
突然マリラは大声で笑った。過去を嗤う声だった。
「私の愛には、なぜこうも忌まわしい事象が付いて回るか、知っているか、紋章人」
カレナードは女王の不可解な急変こそ忌まわしい事象だと言いたかったが、以前のようにうろたえなかった。彼はそうした女王を受け入れられるようになっていた。彼の力だった。
「紋章人の役目ならば、拝聴いたします」
マリラは広げた腕を降ろした。
「ずいぶん肝が据わったようだな、カレナード。そなたは私の急所を突いたのだぞ。突いた以上、逃げるでない」
「ここにおります。存分にお話し下さい」
マリラは自分でも不思議だった。夏の正装の紋章人がひどく大人びて見えた。彼を誘うと同時に彼の言葉に誘われていた。
女王と私人の境界に立って、彼女は話した。
「…トルチフ。東西トルチフの記憶を消さずにいるのは、自身への教訓である。あの兄弟領主のどちらが先に私に懸想したかは忘れたが、私は愚かにも、それを憎からず思った」
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