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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第8章「刃(やいば)の夏」

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第8章「刃(やいば)の夏」46 フールの恋文

「では、艦長室からここへ来るまでの間に誰かが中身を入れ替えたな。告白文が勝手に書き換わるわけがない」
ジーナが言った。
「ここにケースを届けたのは艦長室付き衛兵です。今、問い合わせます」
女王はうなずき、カレナードに向き直った。
「衛兵への照会が終わるまで、そなたの書いた文章を聞きたい。暗唱を頼む、カレナード」
カレナードの記憶力と集中力が試された。彼は告白文がすり替えられた件を意識から切り離し、数秒の間に記憶を引っ張り出した。
息を整え、用意ができた。
「私、カレナード・レブラントは特別B監房収監と清掃懲罰を経て、己の犯した罪と向き合い、また己のヴィザーツとしての未熟さ、人間としての未熟さに向き合いました。
練習機モス・ツーで訓練飛行を行う以上、私は航空部の一員であり、命令遵守は絶対でした。命令無視が何に起因したのか、情報部副長の緊急連絡を受信してから判断ミスを犯すまでの間をつぶさに検証しました。
まず、私に欠けていたのは、訓練生といえども軍務を行うヴィザーツであるという職業的自覚です。出自がアナザーアメリカンであることは理由になりません。ガーランドに乗船する者は、皆ヴィザーツです。
私の認識は甘く、中途半端でした。ヴィザーツ歴史学で学んだことも軍事学で学んだことも、アナザーアメリカンの意識で解釈すれば多くの疑問が生まれ、それをそのままにしていました。ヴィザーツの根本を学ばず、ただ航空部の即戦力になることを目指していたのです。さらに…」
彼が暗唱している間、マリラは軽く机に持たれて立ち、彼の声を受け止めた。
ジーナも耳を傾けた。
イアカが艦長室からの応答をメモに取った。彼女はそれを女王に差し出し、女王は手を上げてカレナードの暗唱を止めた。
「なるほど…衛兵は途中で寄り道をした。女王区画の手前で、兵站セクションに出向いたそうだ。その時、ワイズ・フールがいて、彼に身だしなみを整えるよう進言した。靴を磨いている間、フールが伝令鞄を預かっていた」
イアカが言った。
「道化が悪戯をしたのですね」
女王は命令した。
「道化に確かめねばならぬ。これは単なる悪戯ではない。紋章人の告白文を勝手に奪ったとなれば、それは犯罪だ。告白文は準公文書の扱いである。艦長と警備隊に連絡を。ワイズ・フールを艦長室に出頭させよ。念のため、兵站セクションで告白文を探させよ」
「御意」
女官達は仕事にかかった。カレナードは言った。
「本当にワイズ・フールが書いたのでしょうか」
「彼は結構な文才の持ち主だ。そなた、この戯作の最初の二行はこころよく読んだであろう」
カレナードは自分の恋慕が現れないよう、感情を出さずに答えた。
「あの二行だけは恋文でした」
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