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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第8章「刃(やいば)の夏」

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第8章「刃(やいば)の夏」45 黒のポルノグラフィ

彼はマリラに言った。
「読まねばなりませんか」
女王はほんの少し首を傾け、それから頷いた。
「そのために呼んだのだ」
カレナードは読み始めた。
「信愛なる女王、マリラ・ヴォーよ、浮き船の船主にして女王である貴女よ、ヴィザーツの長にして花冠をいだく女よ」
一行目が終わり、カレナードは素早く二行目に目を走らせた。
「我が愛はすべて貴女へと向かう、我が魂の深みに貴女が住まう、我が唇に貴女の名を乗せるときの喜び、陽に輝く朝露のきらめきなり」
すぐさま三行目を見た。カレナードの顔色が変わり、声が止まった。マリラがうながした。
「続きを」
文章の先を追っていたカレナードは、顔を上げた。戸惑いと羞恥のために唇が噛みしめられていた。
「これ以上は読めません。この先は声に出す文ではありません!」
三行目から文体はがらりと変わった。二行目までの華やかなレトリックは野卑丸出しの淫猥さに取って代わられた。水色の紙に女王をセックスの対象物にした下劣なポルノグラフィが綴られ、毒のような欲望の産物がカレナードに衝撃をもたらした。
マリラは命じた。
「構わぬ。続きを読みなさい」
カレナードはもう一度断った。しかし、女王は頑として読むよう命じた。仕方なく紙に目を落とした。声が震えた。
「夜の女王は…ただの雌、脚の間の…」
その先は口にするに耐えられない語句が並んでいた。
「駄目です…。マリラさまにお聞かせ出来ません」
困惑しているのはカレナードだけではなかった。ジーナとイアカは、顔を見合わせ立ち尽くした。マリラは平然としていた。
「構わぬと言っておろう。読め、カレナード」
カレナードは断じて読むまいと決めた。
「マリラさま、これは白日に晒してはならない類いのものです。ここで読めば女王の尊厳に傷がつきます。僕はそれを望みません。ゆえに読み進めることは出来かねます」
「私は途中までしか読んでおらぬ。最後は何と書いたのだ、カレナード」
カレナードは必死に冷静であろうと努めた。
「これは僕が書いたものではありません。こ…こんな文章をどうして告白文として提出できますか。まずドルジン教官が目を通すはずです。それから…」
マリラはあとを継いだ。
「そう、訓練生管理部長がチェックし、さらに航空部長、警備隊長、参謀室長、情報部長、そして艦長まで回覧されたのだ。彼らに問い合わせれば、そなたの告白文は『よく書けた反省と自省のドキュメンタリー』だそうだ。が、なぜ私の手元には卑猥な文書があるのか。そなたはこれを書かなかったのだな」
カレナードは毅然と答えた。
「絶対に書きません」
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